イベントレポート

平成23年度泉萩会総会・講演会・懇親会(平成23年10月29日)

【名称】平成23年度 泉萩会総会・講演会・懇親会
【日時】10月29日(土) 15:00〜20:00 (受付:14:30〜)
【会場】KKR仙台(仙台市青葉区錦町1-8-17)


 平成23年度泉萩会総会・講演会・懇親会が10月29日、仙台市内のホテルで開催され、本会員およそ50人が参加しました。本稿では、当日のレポートならびに「森田記念賞」受賞者へのインタビューをご紹介します。


◆講演会

講演会のようす

 平成23年度泉萩会総会・講演会・懇親会が10月29日、仙台市内のホテルで開催され、本会員およそ50人が参加しました。総会に先立って開催された講演会では、小池光さん(仙台文学館々長、昭和46年物理第二学科卒)と髙木章雄さん(地震予知総合研究振興会々長、東北大学名誉教授、昭和27年3月地球物理学科卒)が講師を務めました。

 小池さんの講演テーマは「斎藤茂吉のことなど」。小池さんは「夢中になれるかで適性がわかるが、私の場合、物理より短歌に熱中した」と短歌に転じた経緯に触れた後、斎藤茂吉について茂吉の作品を交えながら紹介。「短歌は人間臭いもの。茂吉の歌には独特なユーモアがある。短歌を読むと世界が広がる」と話しました。

 次いで高木さんは「観象所は今」と題した講演の中で、観象所の歴史や、本学の発展に物理系が果たすべき役割について述べた後、「東日本大震災について考えたこと」を語りました。高木さんは様々な観測データを示しながら、「巨大地震をつかまえるためには、より大きな視点でプレート運動を調べる必要がある」と話していました。

進藤浩一さん(泉萩会副会長、昭和38年物理学科卒)による挨拶

講演会のようす


野家啓一さん(東北大学副総長、昭和46年物理学科卒)による講師紹介・司会

小池光さん(仙台文学館々長、昭和46年物理第二学科卒)による講演


海野徳仁さん(地震・噴火予知研究観測センター長、昭和46年地球物理学科卒)による講師紹介・司会

髙木章雄さん(地震予知総合研究振興会々長、昭和27年3月地球物理学科卒)による講演



◆総会

総会のようす

 講演会に続いて総会が行われました。総会では、織原彦之丞さん(昭和39年物理学卒)が議長を務め、すべての議題が原案どおりに承認されました。また、本学理学部開講100周年を記念した特集号の発行に注力したことや、東日本大震災の影響で大学院修了祝賀会とサマースクールが中止されたことなどが報告されました。総会に次いで、第7回森田記念賞ならびに第3回泉萩会奨励賞の授与式が行われました。授与式では、泉萩会会長の田中正之さん(昭和34年地球物理学科卒)が、受賞者一人ひとりに賞状および賞金を授与しました。

 本年度の森田記念賞は中村哲さん(本学物理学専攻准教授)と川村賢二さん(国立極地研究所准教授、平成6年地球物理学科卒)の2名受賞となりました。また、泉萩会奨励賞は佐藤宇史さん(本学物理学専攻准教授、平成9年物理学科卒)、伊藤洋介さん(本学天文学専攻助教、本学平成9年天文学科卒)、長谷川拓也さん(海洋研究開発機構研究員、平成10年地球物理学専攻卒)の3名受賞となりました。森田記念賞の受賞理由などについての詳細はこちらをご覧ください。また、泉萩会奨励賞についてはこちらをご覧ください。

総会のようす

第7回森田記念賞受賞者の中村哲さん(本学物理学専攻准教授)


第7回森田記念賞受賞者の川村賢二さん(国立極地研究所准教授、平成6年地球物理学科卒)

第3回泉萩会奨励賞受賞者の佐藤宇史さん(本学物理学専攻准教授、平成9年物理学科卒)


第3回泉萩会奨励賞受賞者の伊藤洋介さん(本学天文学専攻助教、本学平成9年天文学科卒)

第3回泉萩会奨励賞受賞者の長谷川拓也さん(海洋研究開発機構研究員、平成10年地球物理学専攻卒)




集合写真


◆懇親会

演奏会のようす

 今年度の懇親会は、本学理学部開講100周年を記念して、仙台シンフォニエッタ有志による演奏会で始まりました。東日本大震災被災者への鎮魂の意を込めてG線上のマリアが演奏されたほか、東北大学学生歌「青葉萌ゆる」の演奏に参加者が斉唱する場面などがありました。

功労者への感謝状贈呈

 また今年度は、本会功労者への感謝状が贈呈されました。感謝状贈呈者の卒業年・学科ならびに事由は、下記のとおりです。  ▽昭和20年物理学科卒の森田章さん(泉萩会会長:平成4〜14年)、昭和24年物理学科卒の門屋卓さん(きたもの会世話人代表:平成1〜現在)、昭和27年物理学科卒の伊達宗行さん(泉萩会会長:平成14〜20年)、昭和27年地球物理学科卒の高木章雄さん(地球物理学系からの貢献)、昭和28年物理学科卒の矢崎卓さん(民間からの常務理事:平成4年〜現在)。

 泉萩会会長の田中正之さん(昭和34年地球物理学科卒)は、挨拶のなかで「もう少し資金があれば泉萩会活動を活性化できるアイディアはあるのだが、会費納入する会員が少ないのが悩み。会員の理解を得られるよう今後も努力していく」と述べました。

 伊達宗行さん(泉萩会会長:平成14〜20年)による乾杯の挨拶があった後、本会員同士で会食しながら懇親を深めていました。森田記念賞ならびに泉萩会奨励賞受賞者によるスピーチのほか、物理学専攻長の石原照也教授や地球物理学専攻長の松澤暢教授(昭和56年地球物理学科卒)から、東日本大震災の影響など各専攻の近況報告もありました。

落合明さん(昭和53年物理学科卒)による司会

仙台シンフォニエッタ有志による演奏会


昭和20年物理学科卒の森田章さん(泉萩会会長:平成4〜14年)への感謝状贈呈

昭和27年物理学科卒の伊達宗行さん(泉萩会会長:平成14〜20年)への感謝状贈呈


昭和27年地球物理学科卒の高木章雄さん(地球物理学系からの貢献)への感謝状贈呈

昭和28年物理学科卒の矢崎卓さん(民間からの常務理事:平成4年〜現在)への感謝状贈呈


泉萩会会長の田中正之さん(昭和34年地球物理学科卒)による挨拶

川村宏さん(昭和53年地球物理学科卒)による司会


伊達宗行さん(泉萩会会長:平成14〜20年)による乾杯の挨拶

乾杯のようす


懇親会のようす(1)

懇親会のようす(2)


懇親会のようす(3)

懇親会のようす(4)


懇親会のようす(5)

第7回森田記念賞受賞者の中村哲さん(本学物理学専攻准教授)によるスピーチ


第7回森田記念賞受賞者の川村賢二さん(国立極地研究所准教授、平成6年地球物理学科卒)によるスピーチ

第3回泉萩会奨励賞受賞者の佐藤宇史さん(本学物理学専攻准教授、平成9年物理学科卒)によるスピーチ


第3回泉萩会奨励賞受賞者の伊藤洋介さん(本学天文学専攻助教、本学平成9年天文学科卒)によるスピーチ

第3回泉萩会奨励賞受賞者の長谷川拓也さん(海洋研究開発機構研究員、平成10年地球物理学専攻卒)によるスピーチ


物理学専攻長の石原照也教授による近況報告

地球物理学専攻長の松澤暢教授(昭和56年地球物理学科卒)による近況報告



平成23年度「森田記念賞」受賞者インタビュー

◆中村哲さん(本学理学研究科物理学専攻准教授)
【受賞の業績】電子ビームによるラムダ・ハイパー核分光研究の確立

中村哲さん(本学理学研究科物理学専攻准教授)

―受賞してのご感想を、お聞かせください。

 2000年の東北大学赴任時から始めた本研究が今回評価され、非常に嬉しく思っている。本研究は、電子線を用いる方法のため、特別な条件が必要となる。そのため最初は、世界中にある加速器研究施設のうちアメリカのジェファーソン研究所でしか行えない研究だったが、最近はドイツのマインツ大学でも行えるようになった。どちらの研究も一人で行えるものではなく、東北大学を中心とした国際共同研究で行なった結果であり、橋本教授(本学理学研究科物理学専攻)をはじめとする国際共同研究者に感謝したい。

―受賞対象となった研究内容について、教えてください。

 「ハイパー核」という、自然界には通常存在しない奇妙な原子核を研究している。自然界に存在する通常の原子核は、陽子と中性子からなり、陽子や中性子の間で働く「核力」という力によってバラバラにならずにくっついている。そこに自然界には通常存在しない奇妙な粒子を入れることで、この「核力」を「バリオン力」というより広い概念に拡張して理解することができる(※)。宇宙には中性子星と呼ばれる星全体が一個の原子核になっているような超高密度の星が存在するが、その中性子星内部ではラムダ粒子をはじめとするストレンジクォークを含む奇妙な粒子が存在すると期待されている。中性子星内部という極限状況下における物質の存在形態を理解する上で「バリオン力」の研究が重要な役割を果たす。これらを理解するために我々は地球上で加速器を用いて人工的にハイパー核をつくって研究しているが、より高い分解能で研究するためには、電子線を用いる必要があった。今回、我々の国際共同研究によって初めて電子線を用いたハイパー核の精密分光が可能になったことが、本受賞の業績である。

 【バリオンとは】原子核を構成する核子(陽子と中性子)のように計3個のクォークでできている粒子のこと。通常の核子は、6種類あるクォークのうち、アップクォークとダウンクォークという2種類計3個のクォークだけで構成されている。これに対して、ストレンジクォークという重いクォークを含むバリオンをハイペロン(重核子)といい、ハイペロンを含む原子核をハイパー核という。

※受賞理由の詳細については、こちらのページをご覧ください。


◆川村賢二さん(国立極地研究所准教授、平成6年地球物理学科卒)
【受賞の業績】極域氷床コアの気体分析に基づく過去の大気組成・気候変動の研究

川村賢二さん(国立極地研究所准教授、平成6年地球物理学科卒)

―受賞してのご感想、お聞かせください。

 本研究は、私が東北大学大学院時代から採集したデータをもとにまとめたものである。その集大成として今回、同窓会から本賞を受賞することができ嬉しく思っている。私自身も嬉しいが、研究チームを代表する気持ちで二重に嬉しい。さらに、極域氷床コアの研究は、氷を掘削することから始まるなど、一人ではできない研究であるため、全国の皆さんを代表し受賞する意味で三重に嬉しい。本研究は比較的歴史が浅く活発な分野であるため、私が論文を発表した後もなおNatureやScience誌などで論争が続いている。今回の受賞を励みに今後も頑張りたい。

―受賞対象となった研究内容について、教えてください。

 地球の気候変動の研究をしている。地球の気候は過去100万年にわたって氷期と間氷期の大変動(氷床の変動)を10万年周期で繰り返してきたが、その原因は謎のままである。例えば、2万年前は、現在のカナダ全土・スカンジナビア半島を含むヨーロッパ北部・西シベリア平原の北半分が厚さ最大3kmの氷床で覆われていたが、地質学的時間スケールで言えば、わずかな期間で現在の間氷期に移行している。このような氷期サイクルの謎を説明する有力な仮説の一つが、「ミランコビッチ理論」である。北半球の高緯度の夏の日射量の変動が、氷床の拡大・縮小に影響して、氷期の周期を生み出すと考える説だ。ミランコビッチは1920〜1930年代、世界で初めて何十万年も遡って日射量を手で正確に計算し、氷期・間氷期との関連を説明しようとした。1970年代には、分析技術の向上により、ミランコビッチ説を検証できるようになったが、新たな謎が生まれた。ミランコビッチ理論は、地軸の首振りと傾きの変動周期である約2万年と4万年の周期性を予測したが、実際の気候変動で最も大きい変動は10万年周期だったのだ。この謎を説明しようと、現在までに数十におよぶ仮説が提案されてきた。代表的なものの一つは、ミランコビッチが正しいとする説で、10万年周期は日射量の変動としては見えないが、2万年周期の日射量変動の振幅変調の周期として10万年周期があり(地球軌道の離心率の変化による)、これが北半球の氷床に影響していると考える説。もう一つは、ミランコビッチ説とは関係なく、南極の気候変動が何らかの理由で先に起こり、それがきっかけとなって大気中の二酸化炭素濃度が変動することが根本的な原因だと考える説。この謎を解決する一つの方法として、南極の気候や大気中二酸化炭素濃度の変動パターンを復元して正確に年代付けする必要があった。南極の気温と大気中二酸化炭素濃度の変動は、どちらも南極の氷床コアを分析することで出てくる。問題は年代が不正確だった点だが、それを正確にしたことが本研究の最大の業績である。南極のドームふじ氷床コアを用いて過去34万年間さかのぼり、年代を誤差2000年以下で決定した。この誤差は、2万年周期の10分の1であり、十分正確だと言える。その結果、何がわかったか。まず南極の気温と二酸化炭素濃度の変動にも10万年周期が見られた。その中の一番寒い所から暖かい所へ一気に温暖化するタイミングが、北半球の夏の日射が上昇していく時期に重なった。大気中二酸化炭素濃度も南極の気温変動とほぼ同期して変動している。このような関係を初めて明らかにし、それがミランコビッチ理論が予測するタイミングと合致したことから、ミランコビッチ理論を支持する結果が得られた。

※受賞理由の詳細については、こちらのページをご覧ください。