森田記念賞は、森田章東北大学名誉教授、前泉萩会会長のご配慮を受けて、本会が学術賞として設置したものである。以下にその要領を示す。
記
| 受賞者氏名 | 受賞の業績 | |
|---|---|---|
| 第7回 (H.23) |
中村 哲 平成1年東京大学理学部物理学科卒、博士(理学)(東京大学)、 東北大学大学院理学研究物理学専攻 准教授 |
電子ビームによるラムダ・ハイパー核分光研究の確立 |
| 川村 賢二 平成6年地球物理学科卒、平成13年地球物理学専攻博士課程修了、 国立極地研究所・研究教育系気水圏研究グループ 准教授 |
極域氷床コアの気体分析に基づく過去の大気組成・気候変動の研究 | |
| 第6回 (H.22) |
柴田 尚和 平成四年東京理科大学理学部物理学科卒、博士(理学)(東京理科大学)、 東北大学大学院理学研究物理学専攻准教授 |
密度行列繰り込み群による強相関電子系の研究 |
| 第5回 (H.21) |
三好 由純 平成8年 宇宙地球物理学科卒、名古屋大学太陽地球環境研究所 助教 |
地球放射線帯における粒子加速過程の研究 |
| 第4回 (H.20) |
木村 真一 昭和63年物理第二学科卒、自然科学研究機構分子科学研究所 准教授 |
赤外放射光利用技術の開発と多重極限下での強相関電子系の低エネルギー分光研究 |
| 第3回 (H.19) |
西村 太志 昭和61年天文及び地球物理第二卒、地球物理学専攻准教授 |
火山噴火のダイナミクスの研究 |
| 第2回 (H.18) |
芳賀 芳範 平成2年物理第2学科卒、日本原子力研究開発機構先端基礎研究センター副主任研究員 |
f電子系化合物の開発的な物性研究 |
| 小松英一郎 平成9年天文学科卒、Assistant Professor、 University of Texas at Austin |
宇宙背景輻射の温度ゆらぎ及び偏光度の観測を用いた宇宙論標準模型の検証 | |
| 第1回 (H.17) |
石原 純夫 昭和62年物理第2学科卒、本学理学研究科物理学専攻助教授 |
金属酸化物の軌道秩序の理論的研究 |
第7回森田記念賞(平成23年度)の公募に対して、本年度は例年になく候補者が多く11名の推薦があった。2回の選考委員会(9月9日、16日)で慎重審議したが、物理学の分野の1位とされた中村哲氏(物理学専攻準教授)と地球物理学の分野の1位とされた川村賢二氏(国立極地研究所・研究教育系気水圏研究グループ准教授)との間で優劣を付けがたく、本年度の受賞候補者として両氏を推薦することが全会一致で決定された。
| 受賞者氏名 |
中村 哲 平成1年東京大学理学部物理学科卒、博士(理学)(東京大学)、 現在、東北大学大学院理学研究物理学専攻 准教授 |
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| 受賞の業績 |
電子ビームによるラムダ・ハイパー核分光研究の確立 (Establishing Λ hypernuclear spectroscopy with electron beams ) |
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| 受賞の対象となった論文 |
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原子核を構成する核子のように3つのクォークで出来ている粒子のことをバリオンという。そのなかでストレンジネスを持つバリオンのことをハイペロンとよんでいる。ハイペロンの中で最も安定なラムダ(Λ)粒子が原子核ポテンシャルに束縛された系がΛハイパー(原子)核である。Λハイパー核の研究では,強い相互作用により形成されるハドロン多体系の構造解明に「ストレンジネス量子数」を手がかりとして,ハドロン多体系の重要な性質を探索出来ることが知られている。この特徴により,Λハイパー核の研究は通常の原子核を含むハドロン多体系研究の最前線を担うようになってきた。
これまで,Λハイパー核の構造を精密に解き明かす分光実験はパイ中間子やK中間子のような2次ビームを用いて行われてきた。しかし2次ビームによる研究はΛハイパー核の質量分解能や統計精度の追求に限界がある。研究をさらに推進するためには高性能電子ビームを用いた精密測定が不可欠であるとされてきた。東北大学のグループはジェファーソン研究所(米)においてこの研究に挑戦し,電子線によるΛハイパー核分光を初めて成功させた[業績1]。中村氏はこの国際共同プログラムを強力に推進し,Λハイパー核研究の新時代を切り開いたのである。
中村氏はジェファーソン研究所等における実績と成果に基づき,Λハイパー核の弱崩壊にともなうパイ中間子エネルギーの超精密測定によるΛハイパー核の質量を画期的な精度で決定する実験を提案した。この研究はマインツ大学(独)の最新鋭電子加速器を用いた実験として認められている[業績2]。
中村氏は,これまで成し遂げてきた優れた実績によって内外の共同研究者から信頼されている研究者である。 ハイパー核分光実験の新たな研究方法を開拓することにより国際的に認められており,日米欧国際共同研究の要としての役割を期待されている。よって,中村氏は森田記念賞相当と判断される。
| 受賞者氏名 |
川村 賢二 平成6年地球物理学科卒、平成13年地球物理学専攻博士課程修了、 現在、国立極地研究所・研究教育系気水圏研究グループ 准教授 |
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| 受賞の業績 |
極域氷床コアの気体分析に基づく過去の大気組成・気候変動の研究 (Studies on the past atmospheric and climatic variations based on gas analyses of polar ice cores ) |
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| 受賞の対象となった論文 |
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地球の気候は、過去100万年にわたり氷期と間氷期という大変動を10万年周期で繰り返してきたが、その原因は謎のままである。川村賢二氏は、南極やグリーンランドの氷床で掘削された氷床コアから過去の空気を抽出して多成分を同時測定する手法を開発し、過去の大気組成・気候変動の復元やそのメカニズムに関する研究において大きな業績を上げてきた。
川村氏は、ドームふじ氷床コアから抽出した空気試料を用いて重要な温室効果気体である二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素の濃度を同時に測定し、それらの濃度が寒冷な氷期に低く温暖な間氷期に高いという、気候変動との密接な関係を明らかにした。また、雪の圧密数値モデルを用いて氷床コアに含まれる空気と氷との間の年代差を推定し、その検証を大気のメタン濃度を用いて行うことにより高精度化した[業績1、2]。
従来の氷床コア年代には大きな誤差があり、気候変動メカニズムの解明にとって大きな制約となっていた。川村氏は、ドームふじ氷床コア中の酸素濃度が掘削点の夏至日射量に支配される事を見いだし、これに基づき年代を高精度化した。まず質量分析によって過去34万年間にわたる酸素濃度の変動を明らかにし、その結果を計算から求まる日射量変動と比較することで、年代を誤差2000年以下で決定した。南極の気温や大気中二酸化炭素濃度の変動と北半球の夏期日射量変動との前後関係を初めて明らかにし、氷期サイクルに関するミランコビッチ理論を支持する結果を得た。[業績2]
川村氏は、スイスやアメリカでの博士研究員時代にも様々な分析技術の開発とその応用研究を行い、それらの成果はNatureやScience誌などに出版されている。第2期ドームふじ深層氷床コアなどを用いた新たな研究も精力的に展開しており、今後も当該分野において世界をリードする研究を行うと期待できる。よって,川村氏は森田記念賞相当と判断される。
第六回森田記念賞の公募に対して、推薦書提出があったのは1名のみであった。2回の選考委員会(9月8日、14日)で慎重審議した結果、本年度の受賞候補者を柴田尚和氏(物理学専攻准教授)とすることが全会一致で決定された。なお、今回の授賞者は物理系学科・専攻の卒業・修了者以外から選ばれた最初の例となる。
| 受賞者氏名 | 柴田 尚和 平成四年東京理科大学理学部物理学科卒、 博士(理学)(東京理科大学)、現在、東北大学大学院理学研究物理学専攻准教授 |
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| 受賞の業績 |
密度行列繰り込み群による強相関電子系の研究 (Theoretical study of strongly correlated electron systems by density-matrix renormalization group ) |
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| 受賞の対象となった論文 |
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量子多体系の研究では,膨大な自由度を扱う必要があり,従来の計算手法は極めて不十分な状況にあった。柴田氏は1997年に、量子転送行列を用いた有限温度量子系に対する計算手法―密度行列繰り込み群(Density-Matrix Renormalization Group: DMRG)―を開発した。これにより強相関量子一次元電子系の熱力学的性質および動的性質を明らかにした。
2000年には,DMRGを磁場中量子二次元系に拡張し、高いランダウ準位(N = 2)の二次元電子系の基底状態の相図を高い精度で決定した[業績1]。この研究により、従来の近似理論(HF近似)で存在が示唆されていた三電子バブル相は明確に否定された。この結果は実験的研究と整合する。
グラフェンにおける分数量子ホール効果の問題は近年大変ホットな研究分野となり、実験的にも理論的にも熾烈な競争が続けられている。柴田氏はこの分野にDMRGを用いて参入し、顕著な業績を挙げつつある。グラフェンは2次元電子系で、その電子はディラック方程式に従う。しかしながら、通常の電子が持つスピンだけでは無く、擬スピンと呼ばれる内部自由度を持っている。この自由度は電子がブリルアンゾーンのK点とK'点でバレー縮退していることに由来する。その結果、この系に磁場を加えたときに生じる分数量子ホール状態として擬強磁性状態が存在し得る。この状態からの素励起としてはバレースカーミオンと呼ばれる位相的励起が存在する。柴田氏はDMRGを用いてバレースカーミオンの励起エネルギーを精密に決定した[業績2]。この成果は、バレースカーミオンに関する実験的検証に対する重要な指針となるものである。
このように、柴田氏は、量子多体系に対して有効な計算手法であるDMRGを開発するとともに、それを用いて物性物理学のいくつかの先端的研究分野に適用し、優れた業績を挙げてきた。よって、森田記念賞の基準を十分に満たしているものと判断される。
選考委員会は9月8日と9月15日の2回開催された。
森田記念賞の候補者は、前年度に推薦された2名のみで、新たな推薦はなかった。他方、泉萩会奨励賞の候補者は、専攻長推薦の3名であった。これら5名の候補者に対して業績等を検討した結果、各候補者の推薦区分を無視して、合わせて適任者を選考することとした。
慎重審議した結果、本年度の森田記念賞には三好由純氏(平成8年地球物理学科卒)、泉萩会奨励賞には是枝聡肇氏(平成7年物理第二学科卒)と萩野浩一氏(平成5年物理第二学科卒)を推薦することが全会一致で決定された。
以上については、10月23日の理事会で承認された。
| 受賞者氏名 | 三好由純 平成8年 宇宙地球物理学科卒、名古屋大学太陽地球環境研究所 助教 |
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| 受賞の業績 |
地球放射線帯における粒子加速過程の研究 (Studies on Particle Acceleration in the Earth's Radiation Belts) |
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| 受賞の対象となった論文 |
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地球をとりまく広大な空間(ジオスペース)は、太陽から絶え間なく放出される電磁波、磁場、荷電粒子などを受けてダイナミックに変動する。三好由純氏は、放射線帯ダイナミクス研究において大きな業績を上げ、最近急速に進展した宇宙天気予測の発展に大きく貢献した。
磁気嵐時には、放射線帯外帯粒子の大幅な増加・加速が観測される。従来、その粒子加速は断熱輸送によるとの見解が主流であったが、三好氏は複数の衛星観測データ(エネルギー粒子、波動、プラズマ密度)を総合的に解析し、粒子の放射線帯内部加速が実際に起きていること、それが波動による非断熱加速によることをはじめて実証した。さらに、観測事実に即した数値計算を行い、プラズマ波動による非断熱過程が重要な役割を果たしていることを示した。[代表業績1]
放射線帯は磁気嵐時に大きな変動を示すが、どのような磁気嵐の時に放射線帯外帯が増大するかは未解明の重要課題であった。三好氏は、磁気嵐を駆動する太陽風のドライバーソース(CME/CIR)の違いに注目し、第23太陽活動期の中規模以上のすべての磁気嵐についてドライバーソースと放射線帯変動の解析を行い、放射線帯の変動が太陽風のCIR型のドライバーソースによって支配されていることをはじめて明かにした。これらの成果をもとに実用的な宇宙放射線予測のアルゴリズムを発表した。[代表業績2]
無衝突プラズマ系であるジオスペースにおいて、相対論的電子と電磁イオンサイクロトロン波動の共鳴による相対論的電子のピッチ角散乱過程が存在することが、約30年前に理論的に指摘されていた。三好氏は、人工衛星、地上観測データを組み合わせた解析的研究と観測事実にもとづく数値計算により、初めてこれを実証した。これにより、波動粒子相互作用を通してジオスペースにおけるイオンと相対論的電子が相互に影響し合い、放射線帯粒子の変動要因となることが明らかとなった。[代表業績3]
第4回森田記念賞(平成20年度)の公募に対して、新規推薦書提出者2名、再提出(内容変更)者1名、昨年までに推薦書が提出されていた者2名の合計5名(物性物理、素粒子論的宇宙論、核融合)を対象にして2回の選考委員会(9月8日、17日)を開催した。5名の業績等について慎重審議した結果、本年度の受賞者を木村 真一氏(昭和63年物理第二学科卒、分子科学研究所准教授)とすることが全会一致で決定された。 授賞式は平成20年10月27日の泉萩会総会において執り行われた。
| 受賞者氏名 | 木村 真一 昭和63年物理第二学科卒、自然科学研究機構分子科学研究所准教授 |
| 受賞の業績 |
赤外放射光利用技術の開発と多重極限下での強相関電子系の低エネルギー分光研究 (Development on infrared synchrotron radiation spectroscopy and low-energy spectroscopic study on strongly correlated electron systems under the multi-extreme conditions) |
| 受賞の対象となった論文 |
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木村氏は、シンクロトロン放射用の新型分光装置の開発によって、赤外・テラヘルツ領域の分光研究に多大な貢献をした。木村氏は、更に、シンクロトロン放射およびここで開発した分光装置を強相関電子系の研究に利用し、これまで熱力学的測定から間接的に推測されていた電子状態が直接観測可能であることを示した。この成果は、固体の電子状態の分光学的研究に強いインパクトを与えるもので、世界的に高く評価されている。
赤外・テラヘルツ領域と呼ばれる低エネルギー光領域には、フェルミ端近傍のエネルギー状態を高分解能・高精度で測定出来るために、強相関電子系の物性研究などの興味あるテーマが数多く存在する。しかしながら、有力な光源がないために、分光研究の発展は遅れていた。そこで、木村氏は、高強度のシンクロトロン放射を用いた赤外・テラヘルツ分光に着目し、従来の性能をはるかに超える新しい分光装置を開発した。それから、Spring8とUVSOR(分子研)に、世界最高の性能を持つビームラインを建設した[業績①]。これらのビームラインの建設により、波数分解幅の測定限界を一気に5㎝-1(エネルギー分解幅0.62 meVに相当)まで縮小し、かつ、独自に開発した計測装置により、従来に比べて桁違いに高い測定精度を実現した。更に、磁気円二色性、極低温・超高圧・強磁場の多重極限状態での赤外分光、赤外磁気光学イメージング、超高圧下のテラヘルツ分光など、従来は不可能と考えられてきた各種分光計測を独自のアイディアで実現した。
木村氏は、開発した上記の分光測定法を強相関電子系に適用して、特異な物性が出現する極低温・強磁場・超高圧の多重極限環境下の電子状態の観測に初めて成功した。これらの成果は、20篇の論文として出版されており、この分野の研究の進展に多大な貢献をした[業績②]。
第3回森田記念賞(平成19年度)に関しては、公募に対して推薦書が提出された候補者が4名となり、それを対象として2回の選考委員会が開催された。慎重審議の結果、本年度の受賞者が別記のとおり決定された。 授賞式は平成19年10月27日の泉萩会総会において執り行われた。
| 受賞者氏名 | 西村 太志 昭和61年天文及び地球物理第二卒、地球物理学専攻准教授 |
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| 受賞の業績 | 火山噴火のダイナミクスの研究 | |
| 受賞の対象となった論文 |
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西村氏は火山噴火機構に関する研究を観測、データ解析、理論の方面から精力的に進め、多くの顕著な研究成果を挙げるとともに、火山物理学のテキストとなる「日本の火山性地震と微動」の著書をまとめるなど我が国の火山学並びに火山噴火予知計画の進展に多大の寄与をした。次の2点は特筆に値する:
(1)「マグマ揮発成分による火道内部の増圧過程」の研究(文部科学省科学研究費特定領域研究)では研究代表者としてマグマ内の気泡やガスのミクロな挙動を理論的に解明し、その結果を地表で観測されるマクロな地殻変動観測データと対比することにより噴火様式の予測の理論的な背景を初めて明らかにした。特に、噴火の発生する以前の地殻変動データの特徴的パターンをもとに来るべき噴火様式が「爆発的噴火」になるかそれとも「比較的静穏な噴火」になるかを事前に予測する理論的・観測的な根拠を与えた。これは我が国ばかりでなく海外の火山噴火予知研究者の注目する成果であり、火山噴火予知研究への貢献が大きい。
(2)西村・井口は共著で地震・微動の観測方法、それらの分類、発生要因の解析方法、噴火活動との関連性などを7章に分け系統的にまとめ上記の著書を上梓した。これは火山物理学を目指す大学院生や専門家向けのテキストとして高く評価されている。
第2回森田記念賞(平成18年度)公募に対して7名の推薦があった。2回の選考委員会を開催して慎重審議したが、2名の有力候補者の優劣の判定が難航した。両者がいくつかの点(物性物理学対宇宙論、実験対理論)で非常に異なっているからである。両者の業績が共に顕著であることを考慮して、今回は受賞者を2名とすることが決定された。また、受賞者が2名の場合、規約上賞金は折半することになっているが、今回は両者とも賞金を全額授与することとした。 授賞式は平成18年10月28日の泉萩会総会において執り行われた。
| 受賞者氏名 | 芳賀芳範 平成2年物理第2学科卒、日本原子力研究開発機構先端基礎研究センター副主任研究員 |
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| 受賞の業績 | f電子系化合物の開発的な物性研究 | |
| 受賞の対象となった論文 | First Observation of de Haas-van Alphen Effect in PuIn3, Y. Haga et al., J. Phys. Soc. Jpn., 74(2005), 2889. | |
芳賀氏は、徹底した単結晶作成によって高品質の試料を作成し、これを高精度の各種測定装置を持つ研究者と協力することで多くの研究成果を挙げてきました。学位論文(東北大学理学研究科物理学専攻:1995 年)では 4f 電子系化合物 CeP の物性を解明しました。その後原子力研究所(当時)に入所し、立地条件をフルに活用した 5f 電子系化合物の物性研究を開始しております。特に、UPd2Al3 の磁気揺らぎを介在した超伝導機構の解明やUCe2 の遍歴強磁性の解明に大きく寄与したことが評価されます。
その後強い放射性を持つプルトニウムの化合物 PuIn3 の単結晶をフラックス法で育成し、その量子振動の観測に成功しました。その結果、この系において 5f 電子が結晶中を動き回っていることを突き止めることができました。この研究は大きな技術的困難を回避しただけでなく、5f 電子系の研究にも大きく寄与するものです。この論文はJPSJ(日本物理学会欧文誌)の注目論文(2005 年)にとりあげられております。
5f 電子系は電子の局在性に関して3d 電子系と 4f 電子系の中間に位置しており、その物性に興味が持たれておりました。ところが、5f 電子系の元素はすべて放射性を持っており、その研究が遅れております。芳賀氏はこの分野の物性研究を先導しております。 以上により、芳賀氏の業績は森田記念賞に充分値するものと判断されます。
| 受賞者氏名 | 小松英一郎 平成9年天文学科卒、Assistant Professor、 University of Texas at Austin |
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| 受賞の業績 | 宇宙背景輻射の温度ゆらぎ及び偏光度の観測を用いた宇宙論標準模型の検証 | |
| 受賞の対象となった論文 | First Year Wilkinson Microwave Anisotropy Probe (WMAP) Observations: Tests of Gaussianity, E. Komatsu et al., Astrophysical Journal Supplement Series, 148 (2003) , 119. | |
小松氏は、宇宙マイクロ波背景輻射CMB の異方性の高精度観測を通じて、宇宙創成期における指数関数的な加速膨張の検証と冷たい暗黒物質の支配する宇宙組成の決定に成功した。とりわけ、次の3 点は特筆に価する。
1)小松氏が参加したチームは、COBE 衛星の後継機として2001 年に打ち上げられたWMAP衛星により CMB の温度揺らぎと偏光度の天球上の分布を観測した。さらに、そのパワースペクトルの形を簡単な宇宙論模型の摂動計算と比較することにより、宇宙の質量組成として暗黒物質、バリオン、暗黒エネルギーがそれぞれ、23 %、4 %、73 %程度を占めることを明らかにした。小松氏は、基本的な宇宙論パラメターに加えて、宇宙年齢、宇宙の晴れ上がりの時期など興味深い量に関してもその導出を担当した。
2)小松氏は、CMB 温度揺らぎの統計的な性質のガウシアン性のテストがインフレーション理論の独立な検証であることにいち早く着目し、WMAP データの統計テストを通じてインフレーション理論を制限する手法を確立した。
3)CMB の偏光は、CMB 温度揺らぎ測定では制限不可能な、どの時期に第一世代の天体が現れたかを示唆する情報源である。小松氏は極めて微弱な偏光成分と非宇宙論的信号との分離、および偏光パワースペクトル解析と再電離期の導出のためのアルゴリズムとパイプラインを構築したが、その結果は WMAP チームの標準ツールとしすべての研究者に供されている。
以上のように、小松氏は弱冠 32 歳ながら、観測的宇宙論の分野で内外から高い評価を受け活発な研究活動を進めてきたが、今後もこの分野で世界をリードすることが期待され、森田記念賞にふさわしい研究者と認められる。
第1回森田記念賞(平成17年度)公募に対して9名の推薦があった。2回の選考委員会を開催して慎重審議した結果、全会一致により以下のように決定した。 授賞式は平成17年10月29日の泉萩会総会において執り行われた。
| 受賞者氏名 | 石原 純夫 昭和62年物理第2学科卒、本学理学研究科物理学専攻助教授 |
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| 受賞の業績 | 金属酸化物の軌道秩序の理論的研究 | |
| 受賞の対象となった論文 | Effective Hamiltonian in manganites: Study of the orbital and spin structures (Phys.Rev.B) |
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石原氏の専門分野は物性理論で、これまで金属酸化物の磁性や伝導を精力的に研究してきた。中でも、上記の論文は氏の代表的業績と言える。この論文では巨大磁気抵抗効果を示すことで知られているマンガン酸化物の電子状態を説明する有効ハミルトニアンを提唱するとともに、それを平均場近似によって扱っている。この物質中のフェルミ準位付近の電子状態には立方対称性の結晶場下にあるマンガンイオンの2重縮退した d 軌道が関与するため、この系はスピンの自由度だけでなく軌道の自由度も持つ。本論文では、この物質のスピン・軌道構造について理論的に調べ、種々の実験結果との比較を行っている。特に、軌道秩序状態に特有な集団励起である軌道波の存在を指摘し、その分散関係を決定したことは重要な成果と言える。この結果については後に十倉グループのラマン散乱の実験により確認されている。
軌道秩序と呼ばれる新しい型の秩序状態がマンガン酸化物の物性に本質的役割を果たすことを明らかにしたことは、石原氏の金属酸化物の物性研究に対する大きな寄与であり、内外の研究者から高く評価されている。この分野は現在でも活発な研究が進められているが、石原氏は引き続きこの分野をリードする研究を続けている。