森田記念賞

森田記念賞について

森田章東北大学名誉教授、前泉萩会会長のご配慮を受けて、以下の要領により泉萩会に学術賞、森田記念賞を設置する

  • 泉萩会に、東北大学理学部・理学研究科関係者で、物理科学の分野ですぐれた業績をあげた若手研究者を表彰することを目的とした森田記念賞を設ける。
  • 表彰される者の資格は、東北大学理学部・理学研究科の物理系学科・専攻に所属するあるいは所属していた者、及び卒業生とし、45歳未満であること。
  • 賞の対象となる研究は、物理科学全般を弾力的に扱い、技術開発や特許等で社会的な評価のあるものも除外しない。
  • 賞は泉萩会会員の推薦形式による公募とする。但し自薦は認めない。推薦は所定の形式に従った書類によるものとし、論文等少なくとも一編を添えて行うこと。なお、推薦書および添付論文は、可能であれば、電子ファイルで提出するものとする。
  • 受賞者の選考は泉萩会理事会で行い、総会に報告される。但し必要があれば会長の指名により理事以外の者を選考に加えることができる。
  • 受賞者の表彰式は泉萩会総会時に合わせて行う。また、業績の要旨は会報に掲載されるものとする。
  • 本賞の賞金は10万円とする。受賞者は毎年一名を原則とする。なお、本賞の設置期間は20年とし、以後は打ち切られるものとする。
  • 本賞決定に要する諸経費は特に計上しない。通常の諸行事のなかで処理される。
  • 具体的な選考手続きは理事会が決定する。また、選考内容は公表されない。

これまでの表彰

受賞者氏名 受賞の業績
第12回
(H.28)
内田 直希
平成11年 宇宙地球物理学科(地物)卒業、博士(理学)、現在、地震・噴火予知研究観測センター准教授
小繰り返し地震を用いたプレート境界の非地震性すべりに関する研究
第11回
(H.27)
前田 拓人
平成13年 宇宙地球物理学科(地物)卒業、博士(理学)、東京大学地震研究所 助教
地震・津波現象のモニタリングとシミュレーションの融合研究
泉田 渉
平成6年 新潟大学理学部卒業 博士(理学)(東北大学)、理学研究科物理学専攻 助教
カーボンナノチューブのスピン軌道相互作用に関する研究
第10回
(H.26)
伊藤 正俊
平成15年 京都大学・理学研究科・物理学宇宙物理学専攻修了 博士(理学)(京都大学)、 サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター助教
炭素12原子核の新しい励起状態の発見〜原子核におけるアルファ凝縮状態の探索と宇宙に於ける元素合成の謎に迫る核構造の研究
第9回
(H.25)
川端 弘治
平成6年東北大学理学部天文および地球物理学科第一(天文)卒、博士(理学)(東北大学)、 広島大学宇宙科学センター准教授
外層を剥ぎ取られた重力崩壊型超新星の爆発形態に関する研究
第8回
(H.24)
木村 憲彰
平成5年筑波大学第三学群基礎工学類卒、博士(理学)(大阪大学)、 東北大学大学院理学研究科物理学専攻准教授
空間反転対称性の破れた重い電子系超伝導の研究
第7回
(H.23)
中村 哲
平成1年東京大学理学部物理学科卒、博士(理学)(東京大学)、 東北大学大学院理学研究科物理学専攻 准教授
電子ビームによるラムダ・ハイパー核分光研究の確立
川村 賢二
平成6年地球物理学科卒、平成13年地球物理学専攻博士課程修了、 国立極地研究所・研究教育系気水圏研究グループ 准教授
極域氷床コアの気体分析に基づく過去の大気組成・気候変動の研究
第6回
(H.22)
柴田 尚和
平成四年東京理科大学理学部物理学科卒、博士(理学)(東京理科大学)、 東北大学大学院理学研究科物理学専攻准教授
密度行列繰り込み群による強相関電子系の研究
第5回
(H.21)
三好 由純
平成8年 宇宙地球物理学科卒、名古屋大学太陽地球環境研究所 助教
地球放射線帯における粒子加速過程の研究
第4回
(H.20)
木村 真一
昭和63年物理第二学科卒、自然科学研究機構分子科学研究所 准教授
赤外放射光利用技術の開発と多重極限下での強相関電子系の低エネルギー分光研究
第3回
(H.19)
西村 太志
昭和61年天文及び地球物理第二卒、地球物理学専攻准教授
火山噴火のダイナミクスの研究
第2回
(H.18)
芳賀 芳範
平成2年物理第2学科卒、日本原子力研究開発機構先端基礎研究センター副主任研究員
f電子系化合物の開発的な物性研究
小松英一郎
平成9年天文学科卒、Assistant Professor、 University of Texas at Austin
宇宙背景輻射の温度ゆらぎ及び偏光度の観測を用いた宇宙論標準模型の検証
第1回
(H.17)
石原 純夫
昭和62年物理第2学科卒、東北大学大学院理学研究科物理学専攻助教授
金属酸化物の軌道秩序の理論的研究

第12回森田記念賞報告(平成28年度)

1.選考経過等

 第12回森田記念賞(平成28年)の公募に対して、2名の候補者推薦があった。選考委員会(9月9日)において慎重審議した結果、地球物理学分野の内田直希氏を受賞者に決定した。

2−1.受賞者1

受賞者氏名 内田 直希(うちだ なおき)
平成11年 宇宙地球物理学科(地物)卒業、博士(理学)、現在、地震・噴火予知研究観測センター准教授(満39歳)
受賞の業績 小繰り返し地震を用いたプレート境界の非地震性すべりに関する研究 (Studies on interplate aseismic slip based on small repeating earthquakes)
受賞の対象となった論文
  • Uchida, N., J. Nakajima, A. Hasegawa, and T. Matsuzawa, What controls interplate coupling?: Evidence for abrupt change in coupling across a border between two overlying plates in the NE Japan subduction zone, Earth Planet. Sci. Lett., 283, 111-121, doi:10.1016/j.epsl.2009.04.003, 2009.
  • Uchida, N., and T. Matsuzawa, Pre- and post-seismic slow slip surrounding the 2011 Tohoku-oki earthquake rupture, Earth Planet. Sci. Lett., 374, 81-91, doi:10.1016/j.epsl.2013.05.021, 2013.
  • Uchida, N., T. Iinuma, R. M. Nadeau, R. B?rgmann, and R. Hino, Periodic slow slip triggers megathrust zone earthquakes in northeastern Japan, Science, 351(6272), 488-492, doi:10.1126/science.aad3108, 2016.

2−2.受賞理由

 プレート境界では、地震による速いすべりに加え、非地震性すべりと呼ばれるゆっくりとしたすべりにより、プレート間の相対運動による歪みが解消されている。これらの2種類のすべりはお互いに影響を及ぼしあっているため、地震の発生過程の理解には両者の発生状況の把握が重要となる。非地震性すべりは地震による高速すべりに比べて推定が難しいが、内田直希氏は博士論文において、プレート境界の非地震性すべりの時空間変化を、小繰り返し地震と呼ばれる特徴的な地震を用いて見積もった。これは、沈み込みプレート境界においては世界で初めての成果であり、特にGPS等の陸上の測地学的観測では推定が困難な沖合において、詳細かつ長期のプレート境界すべりの状況を捉えることに成功したことは、沈み込み帯のテクトニクスの解明にとって大きな貢献となった。
 内田氏はその後、小繰り返し地震の研究をさらに進め、地震のすべりベクトルを用いた推定により、関東地方の沖合のフィリピン海プレートの北限位置を推定し、さらに、プレート境界の固着強度が上盤側のプレートの性質に規定されているということを明らかにした[業績1]。東北地方太平洋沖地震の発生原因の解明においても、小繰り返し地震による非地震性すべり推定は威力を発揮し、この大地震の発生前の数年間の期間にプレート境界の固着が緩んでいたことを示した[業績2]。また、北海道から関東地方の沖合で周期的なスロースリップ(非地震性すべり)が起きていることを発見し、このスロースリップが起きている時期に中?大規模の地震が起きやすいことを見出した[業績3]。これらの業績は、プレート境界型地震と非地震性すべりの相互作用を明らかにした先進的なものであり、プレート境界型地震の発生過程の理解の進展に貢献しているだけでなく、将来的に大地震の起こりやすい場所と時期を特定することにより、地震災害軽減にも貢献できる可能性のある重要な研究である。
 以上のように内田氏は、森田記念賞にふさわしい優れた研究業績を上げたものと評価される。

第11回森田記念賞報告(平成27年度)

1.選考経過等

 第11回森田記念賞(平成27年)の公募に対して、4名の候補者推薦があった。2回の選考委員会(9月8日および10月9日)において慎重審議した結果、地球物理学分野の前田拓人氏と物理学分野の泉田渉氏(年齢の若い順)を受賞者に決定した。

2−1.受賞者1

受賞者氏名 前田 拓人(まえだ たくと)
平成13年 宇宙地球物理学科(地物)卒業、博士(理学)、 現在、東京大学地震研究所 助教(満38歳)
受賞の業績 地震・津波現象のモニタリングとシミュレーションの融合研究 (Integrated study of modeling and simulation of earthquake and tsunami phenomena)
受賞の対象となった論文
  • Maeda, T., H. Sato, and T. Nishimura, Synthesis of coda wave envelopes in randomly inhomogeneous elastic media in a half space: Single scattering model including Rayleigh waves, Geophys. J. Int., 172(1), 130-154, doi:10.1111/j.1365-246X.2007.03603.x, 2007.
  • Maeda, T., T. Furumura, S. Sakai, and M. Shinohara, Significant tsunami observed at the ocean-bottom pressure gauges during the 2011 Off the Pacific Coast of Tohoku Earthquake, Earth Planets Space, 63(7), 803-808, doi:10.5047/eps.2011.06.005, 2011.
  • Maeda, T., T. Furumura, S. Noguchi, S. Takemura, S. Sakai, M. Shinohara, K. Iwai, S. J. Lee, Seismic and tsunami wave propagation of the 2011 Off the Pacific Coast of Tohoku Earthquake as inferred from the tsunami-coupled finite difference simulation, Bull. Seism. Soc. Am, 103(2B), 1456-1472, doi:10.1785/0120120118, 2013.

2−2.受賞理由

 前田拓人氏は、地震・津波波動伝播現象の背景物理の洞察に基づき、地殻活動や地球内部構造の解明や巨大地震発生に伴う地震動と津波のための記録解析・モニタリング手法を多数提案、実現してきた。
 前田氏の研究は多岐にわたり、これらは主に3つに分けられる。第一は、申請者の理論的考察の礎となる、地震波動伝播の理論的研究である。観測される長周期表面波のコーダ波の形成の仕組みの解明や、不均質な媒質中を伝播するP波、S波及び表面波の散乱過程の数理的モデリング(業績1)を進めた。第二は、高密度波形記録の徹底的な調査にもとづく、地殻活動のモニタリング手法の開発と新現象の発見である。巨大地震発生帯深部で発生する深部低周波微動の新たな震源決定法の開発、常時微動連続記録解析にもとづく地殻構造の時間変化の発見、大地震に伴う海中音波(T-phase)の海山列からの反射現象の発見、海底津波記録を用いた2011年東北地方太平洋沖地震の震源過程の推定(業績2)など、既存のデータを丁寧に解析した研究である。そして、第三は、地震波や津波伝播などに関する高度な数値シミュレーション技法の開発と実施である。海溝型巨大地震に励起される地震動、地殻変動、津波はこれまで個別に数値計算されてきたが、複雑に絡み合ったこれらの現象を統一的に再現する手法を提案し(業績3)、「京」コンピュータ等の大型計算機上でシミュレーションを実現した。 東北地方太平洋沖地震の発生後、日本海溝海底地震津波観測網(S-net)の整備が進められるなど、地震・津波のモニタリング研究の重要性はますます増大しており、前田氏のこの先駆的な研究は、地震・津波現象の理解だけでなく、リアルタイム解析への応用により防災・減災に大きく貢献する可能性が高い。
 以上のように、前田拓人氏は森田記念賞にふさわしい優れた研究業績を上げたものと評価される。

3−1.受賞者2

受賞者氏名 泉田 渉(いずみだ わたる)
平成6年 新潟大学理学部卒業 博士(理学)(東北大学)、 現在、理学研究科物理学専攻 助教(満43歳)
受賞の業績 カーボンナノチューブのスピン軌道相互作用に関する研究 (Study on spin-orbit interaction in carbon nanotubes)
受賞の対象となった論文
  • W. Izumida, K. Sato, and R. Saito, J. Phys. Soc. of Japan 78, 2009, 074707, "Spin-Orbit Interaction in Single Wall Carbon Nanotubes: Symmetry Adapted Tight-Binding Calculation and Effective Model Analysis"
  • W. Izumida, A. Vikstr¨om, and R. Saito, Phys. Rev. B 85, 165430 (2012), "Asymmetric velocities of Dirac particles and Vernier spectrum in metallic single-wall carbon nanotubes"
  • W. Izumida, R. Okuyama, and R. Saito, Phys. Rev. B 91, 235442 (2015), "Valley coupling in finite-length metallic single-wall carbon nanotubes"

3−2.受賞理由

 単層カーボンナノチューブ(CN)はグラフェンを切り取って筒状にした構造を持つが、半径の自由度のみならず、「巻き方」に関する自由度も持つ。従って、CNは多彩なバンド構造を持ち、1次元導体または半導体となる。そのため、基礎物性のみならず応用の観点からも興味を持たれている。CNは炭素で出来ているためにバンド構造に対するスピン軌道相互作用は小さいが、それがどのような効果を持つかについてはこれまで良く知られていなかった。泉田氏はこの問題についていくつかの重要な成果を挙げている。
 まず、参考資料1)では、螺旋対称性を有する系に対してスピン自由度を取り込んだブロッホ関数の定式化を行い、それに基づいたタイトバインディング法による数値計算を系統的に行った。それにより、アームチェアー型と呼ばれるCNではバンドギャップが開くこと、カイラル型ならびにジグザグ型と呼ばれるCNではバンド分裂が生じることを見出した。また、これらの現象がCNの半径や巻き方に強く依存することが示された。これらの結果については、有効モデルを導出することにより系統的に説明することに成功している。
 参考資料2)では、CNのバンドの「谷」と呼ばれる自由度の存在により、電子の速度がチューブに対してどちら向きの運動であるかによって異なる値となることを指摘し、そのことに起因するバンド構造の特徴を明らかにした。参考資料3)では、さらにスピン軌道相互作用を含めたモデルによる解析がなされた。数値計算を通して、特にMetal-1と呼ばれる物質では、二つの谷では異なる軌道角運動量を示すことを示すとともに、そこでのバンドの縮退とスピン軌道相互作用の効果を明らかにした。
 以上の結果は、これまで定量的に考慮されることのなかったカーボンナノチューブに対するスピン軌道相互作用の様々な効果を明らかにしたものである。
 泉田渉氏のこれらの業績は森田記念賞にふさわしいと判断される。

第10回森田記念賞報告(平成26年度)

1.選考経過等

 第10回森田記念賞(平成26年)の公募に対して、4名の候補者推薦があった。2回の選考委員会(9月2日、16日)において慎重審議した結果、サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター測定器研究部の伊藤正俊氏を受賞者として決定した。

受賞者氏名 伊藤 正俊(いとう まさとし)
平成15年 京都大学・理学研究科・物理学宇宙物理学専攻修了 博士(理学)(京都大学)、 現在、サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター助教(満42歳)
受賞の業績 炭素12原子核の新しい励起状態の発見〜原子核におけるアルファ凝縮状態の探索と宇宙に於ける元素合成の謎に迫る核構造の研究
(Discovery of the new excited state in ^{12}C 〜 Essential nuclear-structure study for nucleosynthesis-scenario in the universe)
受賞の対象となった論文
  • M. Itoh et al. , Phys, Rev. C 84 (2011) 054308, "Candidate for the 2^+ excited Hoyle state at E_x〜 10 MeV in ^{12}C"
  • M. Itoh et al. , Phys, Rev. Lett. 113 (2014)102501, "Further improvement of the upper limit on the direct 3α decay from the Hoyle state in ^{12}C"

2.受賞理由

 核子多体系からなる原子核は自然界に於ける一階層を形成しミクロラボラトリーとして固有の多彩な存在様式を示すと同時に、他の階層と共通の姿も示している。伊藤正俊氏の研究は、宇宙における元素誕生という原子核固有のダイナミックスと、"アルファ凝縮"に通ずる現象を炭素‐12に於ける3α状態に焦点を当てて実験的に明らかにしたものである。
 原子核に於ける結合エネルギーは質量数A‐50近傍の原子核を最大として、元素合成は、これより軽い核に於いては核融合反応を通して進み、これ以降の元素合成は中性子の吸収とベータ崩壊を通して進行する。この宇宙に於ける元素合成のシナリオの中にはいくつかの壁があるが、一番大きなものは極初期に現れるA(N+Z) = 8の壁である。N = 4, Z = 4の^8Be核は出来ても直ちに2個のアルファ粒子に崩壊してしまい、以降の重い核は生成されず元素合成はストップしてしまう。この困難を、3個のアルファ粒子3αで合成された0^+2状態(ホイル状態)が炭素‐12の励起エネルギーE_x = 7.65 MeVに有るものとして克服し、宇宙に^12C核の誕生を見て以降の重い核の合成が可能となったとされている。
 このホイル状態による元素合成のシナリオは核物理学に新たな課題を持ち込んだ。そのうちの一つは、元素誕生のための定量的な議論にするために必要な、3個のアルファ粒子が融合する確率を求めることと、第2に0^+2状態(ホイル状態)の素性を明確にする為、この状態の励起状態を見つけることであった。
 3体反応の断面積を実験的に求める方法は逆反応を使うdetailed balanceの手法によって0^+2状態(ホイル状態)のdirect 3α decayの観察に依れば良く、またアルファ凝縮状態とされるホイル状態そのものを明確にするためには0^+2状態(ホイル状態)をバンドヘッドとする励起2^+状態を見つけ出すことであった。第10回森田記念賞の対象となった伊藤正俊氏の研究内容を示す上記(d)の2編の論文の内(2)は上で述べた前者の課題に3α decayの崩壊分岐比を上限0.2%で測定して応えるものであり、(1)は7.65 MeVの0^+2状態より2.19 MeV上(3αが正三角形に組んで集団運動し、2^+‐one phonon励起となる)に2^+2状態の候補を発見し、後者の課題に応えるものとなっている。
 以上をもって、伊藤正俊氏は森田記念賞にふさわしい優れた研究業績を上げたものと評価される。

第9回森田記念賞報告(平成25年度)

1.選考経過等

 第9回森田記念賞(平成25年)の公募に対して、2名の候補者推薦があった。2回の選考委員会(9月12日、26日)において慎重審議した結果、天文・宇宙物理学分野の川端弘治氏を受賞候補者として推薦することとした。なお、今回は2名の候補者の中から選ばれたものであるが、川端氏の業績が森田記念賞歴代受賞者の業績と比較して全く遜色がないことを付言する。

受賞者氏名 川端 弘治(かわばた こうじ)
平成6年東北大学理学部天文および地球物理学科第一(天文)卒、博士(理学)(東北大学)、 現在、広島大学宇宙科学センター准教授
受賞の業績 外層を剥ぎ取られた重力崩壊型超新星の爆発形態に関する研究
(A Study on Morphology of Explosion in Envelope-Stripped Core-Collapse Supernovae )
受賞の対象となった論文
  • K. S. Kawabata et al, Astrophy. J, 580 (2002) L39-L42 "Optical Spectropolarimetry of SN 2002ap: A High-Velocity Asymmetric Explosion"
  • K. S. Kawabata et al, Nature 465 (2010) 326-328 "A massive star origin for an unusual helium-rich supernova in an elliptical galaxy"

2.受賞理由

 恒星全体を爆発により吹き飛ばす「超新星」は、宇宙における元素合成、星形成、銀河の動力学、中性子星、ブラックホールなど今日の天文宇宙物理学の多くの分野と深く関わっている。超新星爆発が球対称的であるかどうかは基本的な問題であるが、これまでの観測ではこの問題に決着をつけることができなかった。他方、計算上の限界から、近年までの研究の大半は「爆発は球対称的である」と仮定して行われたが、「流体シミュレーションで爆発を再現できない」等の困難に直面していた。そうした中、川端弘治氏は「すばる望遠鏡」で微光天体の分光と偏光測定を行うための観測装置を完成させ、これを用いた研究により、この問題について決定的結果を得た。
 川端弘治氏が開発に携わった観測装置で特筆すべきことは、偏光測定モードを備えたことと微光天体にたいする高精度測定を安定的に実現させたことである(Kashikawa et.al. 2002, Pub.A. S. Japan) 。この装置を用いた観測により、まず第1に、2002年に現れた超新星の一つでの偏光スペクトル解析から、大質量星が爆発前に外層を剥ぎ取られた状態で重力崩壊を起こしたと考えられる超新星(Ib/c型)おいて「爆発が非等方的である」ことを実証した(業績1)。その後に他の銀河に現れたIb/c型超新星でも、その殆どの爆発が本質的に非等方的であることを、爆発初期から爆発後期までのデータを基にして、結論した。また、球対称からのずれの程度は爆発エネルギーに応じて大きくなることも明らかにした。第2に、理論的に存在が予想されながらも観測では確認されていなかった「軽い重力崩壊型超新星」の初検出に成功し、天体物理学の基礎となる恒星の進化理論が大筋で正しいことを示した(業績2)。
 以上のように、川端弘治氏は、超新星の観測に偏光測定を導入し、爆発の機構、ブラックホールの生成、大質量星の進化の解明に繋がる観測結果を得ており、森田記念賞にふさわしい研究業績を上げたものと評価される。

第8回森田記念賞報告(平成24年度)

1.選考経過等

 第8回森田記念賞(平成24年度)の公募に対して、昨年と同様に多くの候補者(10名)の推薦があった。2回の選考委員会(9月4日、26日)において慎重審議した結果、物理学分野の木村憲彰氏(物理学専攻準教授)を受賞候補者として推薦することとした。各分野毎に候補者の業績比較および年齢等も含めて総合的に評価した。

受賞者氏名 木村 憲彰(きむら のりあき)
平成5年筑波大学第三学群基礎工学類卒、博士(理学)(大阪大学)、 現在、東北大学大学院理学研究科物理学専攻准教授
受賞の業績 空間反転対称性の破れた重い電子系超伝導の研究
(Study of Non-Centrosymmetric Heavy-Fermion Superconductors )
受賞の対象となった論文
  • N. Kimura, K. Ito, H. Aoki, S. Uji and T. Terashima, Phys. Rev. Lett. 98 (2007) 197001: "Extremely high upper critical magnetic field of the noncentrosymmetric heavy fermion superconductor CeRhSi3".
  • N. Kimura, Y. Muro and H. Aoki, J. Phys. Soc. Jpn. 76 (2007) 051010: "Normal and superconducting properties of noncentrosymmetric heavy fermion CeRhSi3".

2.受賞理由

 超伝導の研究においては、従来型の超伝導に加えて、シェブレル超伝導、高温超伝導、有機超伝導などの新規な超伝導の発見により分野の深化が進んで来た。関連する超伝導体の結晶は通例空間反転対称性を持っている。ところが、空間反転対称性の破れた超伝導体中のクーパー対はスピンシングレットやトリプレットといった従来型の超伝導体の枠組みには収まらない。木村憲彰氏は、その研究が開始された当初から空間反転対称性の破れの重要性に気づき、空間反転対称性のない結晶構造を持つ重い電子系物質CeRhSi3の純良単結晶を育成し、圧力下で超伝導を見出した(N. Kimura et al. Phys. Rev. Lett. 95 (2005) 047004)。さらに、この物質の超伝導上部臨界磁場と転移温度の比が、それまで知られていた超伝導物質をはるかにしのぐ高い値を示すことを実験的に明らかにした。そのため、この超伝導は"高温"超伝導ならぬ"高磁場"超伝導とも呼ぶべきものであり、重い電子状態による超伝導に反転対称性がないことが付加されたことに由来する新奇な性質と言える [業績1]。この特異性が明らかになったことで、"空間反転対称性"が超伝導研究の新しいパラダイムとして多くの研究者に印象付けられた。木村氏のこの研究は、日本物理学会欧文誌での重い電子系超伝導の特集号において招待論文にも選ばれている[業績2]。現在では国内外の多くの研究グループが、このパラダイムの下で、新しい超伝導物質の探索やその新奇な性質の解明に取り組んでいる。
 以上のように木村憲彰氏は、重い電子系と超伝導の両研究分野にまたがり、先駆的な役割を果たしており、その研究業績は森田記念賞にふさわしいものと評価される。

第7回森田記念賞報告(平成23年度)

1.選考経過等

 第7回森田記念賞(平成23年度)の公募に対して、本年度は例年になく候補者が多く11名の推薦があった。2回の選考委員会(9月9日、16日)で慎重審議したが、物理学の分野の1位とされた中村哲氏(物理学専攻準教授)と地球物理学の分野の1位とされた川村賢二氏(国立極地研究所・研究教育系気水圏研究グループ准教授)との間で優劣を付けがたく、本年度の受賞候補者として両氏を推薦することが全会一致で決定された。

2−1.受賞者1

受賞者氏名 中村 哲
平成1年東京大学理学部物理学科卒、博士(理学)(東京大学)、 現在、東北大学大学院理学研究科物理学専攻 准教授
受賞の業績 電子ビームによるラムダ・ハイパー核分光研究の確立
(Establishing Λ hypernuclear spectroscopy with electron beams )
受賞の対象となった論文
  • O. Hashimoto et. al., J. Phys: Conf. Ser. 312 (2011) 022015-1-6、"Binding Energy of and Test of Charge Symmetry Breaking in the ΛN Interaction Potential".
  • F. Garibaldi, O. Hashimoto, J. J. Le Rose, P. Markowitz, S. N. Nakamura, J. Reinhold and L. Tang., J. Phys: Conf. Ser. 299 (2011) 012013-1-23: "The First Decade of Science at Jefferson Lab Hypernuclear Spectroscopy".

2−2.受賞理由

 原子核を構成する核子のように3つのクォークで出来ている粒子のことをバリオンという。そのなかでストレンジネスを持つバリオンのことをハイペロンとよんでいる。ハイペロンの中で最も安定なラムダ(Λ)粒子が原子核ポテンシャルに束縛された系がΛハイパー(原子)核である。Λハイパー核の研究では,強い相互作用により形成されるハドロン多体系の構造解明に「ストレンジネス量子数」を手がかりとして,ハドロン多体系の重要な性質を探索出来ることが知られている。この特徴により,Λハイパー核の研究は通常の原子核を含むハドロン多体系研究の最前線を担うようになってきた。
 これまで,Λハイパー核の構造を精密に解き明かす分光実験はパイ中間子やK中間子のような2次ビームを用いて行われてきた。しかし2次ビームによる研究はΛハイパー核の質量分解能や統計精度の追求に限界がある。研究をさらに推進するためには高性能電子ビームを用いた精密測定が不可欠であるとされてきた。東北大学のグループはジェファーソン研究所(米)においてこの研究に挑戦し,電子線によるΛハイパー核分光を初めて成功させた[業績1]。中村氏はこの国際共同プログラムを強力に推進し,Λハイパー核研究の新時代を切り開いたのである。
 中村氏はジェファーソン研究所等における実績と成果に基づき,Λハイパー核の弱崩壊にともなうパイ中間子エネルギーの超精密測定によるΛハイパー核の質量を画期的な精度で決定する実験を提案した。この研究はマインツ大学(独)の最新鋭電子加速器を用いた実験として認められている[業績2]。 中村氏は,これまで成し遂げてきた優れた実績によって内外の共同研究者から信頼されている研究者である。 ハイパー核分光実験の新たな研究方法を開拓することにより国際的に認められており,日米欧国際共同研究の要としての役割を期待されている。よって,中村氏は森田記念賞相当と判断される。

3−1.受賞者2

受賞者氏名 川村 賢二
平成6年地球物理学科卒、平成13年地球物理学専攻博士課程修了、 現在、国立極地研究所・研究教育系気水圏研究グループ 准教授
受賞の業績 極域氷床コアの気体分析に基づく過去の大気組成・気候変動の研究
(Studies on the past atmospheric and climatic variations based on gas analyses of polar ice cores )
受賞の対象となった論文
  • Kawamura, K., Nakazawa, T., Aoki, S., Sugawara, S., Fujii, Y., and Watanabe, O., Atmospheric CO_2 variations over the last three glacial-interglacial climatic cycles deduced from the Dome Fuji deep ice core, Antarctica using a wet extraction technique, Tellus, 55B (2003), 126-137.
  • Kawamura, K., F. Parrenin, L. Lisiecki, R. Uemura, F. Vimeux, J. P. Severinghaus, M. A. Hutterli, T. Nakazawa, S. Aoki, J. Jouzel, M. E. Raymo, K. Matsumoto, H. Nakata, H. Motoyama, S. Fujita, K. Goto-Azuma, Y. Fujii, and O. Watanabe, Northern Hemisphere forcing of climatic cycles in Antarctica over the past 360,000 years, Nature, 448 (2007), 912-916.

3−2.受賞理由

 地球の気候は、過去100万年にわたり氷期と間氷期という大変動を10万年周期で繰り返してきたが、その原因は謎のままである。川村賢二氏は、南極やグリーンランドの氷床で掘削された氷床コアから過去の空気を抽出して多成分を同時測定する手法を開発し、過去の大気組成・気候変動の復元やそのメカニズムに関する研究において大きな業績を上げてきた。
 川村氏は、ドームふじ氷床コアから抽出した空気試料を用いて重要な温室効果気体である二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素の濃度を同時に測定し、それらの濃度が寒冷な氷期に低く温暖な間氷期に高いという、気候変動との密接な関係を明らかにした。また、雪の圧密数値モデルを用いて氷床コアに含まれる空気と氷との間の年代差を推定し、その検証を大気のメタン濃度を用いて行うことにより高精度化した[業績1、2]。
 従来の氷床コア年代には大きな誤差があり、気候変動メカニズムの解明にとって大きな制約となっていた。川村氏は、ドームふじ氷床コア中の酸素濃度が掘削点の夏至日射量に支配される事を見いだし、これに基づき年代を高精度化した。まず質量分析によって過去34万年間にわたる酸素濃度の変動を明らかにし、その結果を計算から求まる日射量変動と比較することで、年代を誤差2000年以下で決定した。南極の気温や大気中二酸化炭素濃度の変動と北半球の夏期日射量変動との前後関係を初めて明らかにし、氷期サイクルに関するミランコビッチ理論を支持する結果を得た。[業績2]
 川村氏は、スイスやアメリカでの博士研究員時代にも様々な分析技術の開発とその応用研究を行い、それらの成果はNatureやScience誌などに出版されている。第2期ドームふじ深層氷床コアなどを用いた新たな研究も精力的に展開しており、今後も当該分野において世界をリードする研究を行うと期待できる。よって,川村氏は森田記念賞相当と判断される。

第6回森田記念賞報告(平成22年度)

1.選考経過等

 第六回森田記念賞の公募に対して、推薦書提出があったのは1名のみであった。2回の選考委員会(9月8日、14日)で慎重審議した結果、本年度の受賞候補者を柴田尚和氏(物理学専攻准教授)とすることが全会一致で決定された。なお、今回の授賞者は物理系学科・専攻の卒業・修了者以外から選ばれた最初の例となる。

受賞者氏名 柴田 尚和
平成四年東京理科大学理学部物理学科卒、
博士(理学)(東京理科大学)、現在、東北大学大学院理学研究科物理学専攻准教授
受賞の業績 密度行列繰り込み群による強相関電子系の研究
(Theoretical study of strongly correlated electron systems by density-matrix renormalization group )
受賞の対象となった論文
  • N. Shibata et. al., Phys. Rev. Lett. 86 (2001) 5755-5758, Ground-state phase diagram of 2D electrons in a high Landau level.
  • N. Shibata et. al., Phys. Rev. B 77 (2008) 235426, Coupled charge and valley excitations in graphene quantum Hall ferromagnets.

2.受賞理由

 量子多体系の研究では,膨大な自由度を扱う必要があり,従来の計算手法は極めて不十分な状況にあった。柴田氏は1997年に、量子転送行列を用いた有限温度量子系に対する計算手法―密度行列繰り込み群(Density-Matrix Renormalization Group: DMRG)―を開発した。これにより強相関量子一次元電子系の熱力学的性質および動的性質を明らかにした。
 2000年には,DMRGを磁場中量子二次元系に拡張し、高いランダウ準位(N = 2)の二次元電子系の基底状態の相図を高い精度で決定した[業績1]。この研究により、従来の近似理論(HF近似)で存在が示唆されていた三電子バブル相は明確に否定された。この結果は実験的研究と整合する。
 グラフェンにおける分数量子ホール効果の問題は近年大変ホットな研究分野となり、実験的にも理論的にも熾烈な競争が続けられている。柴田氏はこの分野にDMRGを用いて参入し、顕著な業績を挙げつつある。グラフェンは2次元電子系で、その電子はディラック方程式に従う。しかしながら、通常の電子が持つスピンだけでは無く、擬スピンと呼ばれる内部自由度を持っている。この自由度は電子がブリルアンゾーンのK点とK'点でバレー縮退していることに由来する。その結果、この系に磁場を加えたときに生じる分数量子ホール状態として擬強磁性状態が存在し得る。この状態からの素励起としてはバレースカーミオンと呼ばれる位相的励起が存在する。柴田氏はDMRGを用いてバレースカーミオンの励起エネルギーを精密に決定した[業績2]。この成果は、バレースカーミオンに関する実験的検証に対する重要な指針となるものである。
 このように、柴田氏は、量子多体系に対して有効な計算手法であるDMRGを開発するとともに、それを用いて物性物理学のいくつかの先端的研究分野に適用し、優れた業績を挙げてきた。よって、森田記念賞の基準を十分に満たしているものと判断される。

第5回森田記念賞報告(平成21年度)

1.選考経過等

 選考委員会は9月8日と9月15日の2回開催された。
 森田記念賞の候補者は、前年度に推薦された2名のみで、新たな推薦はなかった。他方、泉萩会奨励賞の候補者は、専攻長推薦の3名であった。これら5名の候補者に対して業績等を検討した結果、各候補者の推薦区分を無視して、合わせて適任者を選考することとした。
 慎重審議した結果、本年度の森田記念賞には三好由純氏(平成8年地球物理学科卒)、泉萩会奨励賞には是枝聡肇氏(平成7年物理第二学科卒)と萩野浩一氏(平成5年物理第二学科卒)を推薦することが全会一致で決定された。
 以上については、10月23日の理事会で承認された。

受賞者氏名 三好由純
平成8年 宇宙地球物理学科卒、名古屋大学太陽地球環境研究所 助教
受賞の業績 地球放射線帯における粒子加速過程の研究
(Studies on Particle Acceleration in the Earth's Radiation Belts)
受賞の対象となった論文
  • Miyoshi, Y., A. Morioka, T. Obara, H. Misawa, T. Nagai and Y. Kasahara, Rebuilding process of the outer radiation belt during the November 3 1993 magnetic storm - NOAA and EXOS-D observation, J. Geophys. Res., 108 (2003), 1004, doi:10.1029/2001JA007542.
  • Miyoshi, Y. and R. Kataoka, Ring current ions and radiation belt electrons during geomagnetic storms driven by coronal mass ejections and corotating interaction regions, Geophys. Res. Lett., 32 (2005), L21105, doi:1029/2005GL024590.
  • Miyoshi, Y., K. Sakaguchi, K. Shiokawa, D. Evans, J. Albert, M. Conners, and V. Jordanova, Precipitation of radiation belt electrons by EMIC waves observed from ground and space, Geophys. Res. Lett., 35 (2008), L23101, doi:10.1029/2008GL035727.

2.受賞理由

 地球をとりまく広大な空間(ジオスペース)は、太陽から絶え間なく放出される電磁波、磁場、荷電粒子などを受けてダイナミックに変動する。三好由純氏は、放射線帯ダイナミクス研究において大きな業績を上げ、最近急速に進展した宇宙天気予測の発展に大きく貢献した。
 磁気嵐時には、放射線帯外帯粒子の大幅な増加・加速が観測される。従来、その粒子加速は断熱輸送によるとの見解が主流であったが、三好氏は複数の衛星観測データ(エネルギー粒子、波動、プラズマ密度)を総合的に解析し、粒子の放射線帯内部加速が実際に起きていること、それが波動による非断熱加速によることをはじめて実証した。さらに、観測事実に即した数値計算を行い、プラズマ波動による非断熱過程が重要な役割を果たしていることを示した。[代表業績1] 
 放射線帯は磁気嵐時に大きな変動を示すが、どのような磁気嵐の時に放射線帯外帯が増大するかは未解明の重要課題であった。三好氏は、磁気嵐を駆動する太陽風のドライバーソース(CME/CIR)の違いに注目し、第23太陽活動期の中規模以上のすべての磁気嵐についてドライバーソースと放射線帯変動の解析を行い、放射線帯の変動が太陽風のCIR型のドライバーソースによって支配されていることをはじめて明かにした。これらの成果をもとに実用的な宇宙放射線予測のアルゴリズムを発表した。[代表業績2]
 無衝突プラズマ系であるジオスペースにおいて、相対論的電子と電磁イオンサイクロトロン波動の共鳴による相対論的電子のピッチ角散乱過程が存在することが、約30年前に理論的に指摘されていた。三好氏は、人工衛星、地上観測データを組み合わせた解析的研究と観測事実にもとづく数値計算により、初めてこれを実証した。これにより、波動粒子相互作用を通してジオスペースにおけるイオンと相対論的電子が相互に影響し合い、放射線帯粒子の変動要因となることが明らかとなった。[代表業績3]

第4回森田記念賞報告(平成20年度)

1.選考経過等

第4回森田記念賞(平成20年度)の公募に対して、新規推薦書提出者2名、再提出(内容変更)者1名、昨年までに推薦書が提出されていた者2名の合計5名(物性物理、素粒子論的宇宙論、核融合)を対象にして2回の選考委員会(9月8日、17日)を開催した。5名の業績等について慎重審議した結果、本年度の受賞者を木村 真一氏(昭和63年物理第二学科卒、分子科学研究所准教授)とすることが全会一致で決定された。 授賞式は平成20年10月27日の泉萩会総会において執り行われた。

受賞者氏名 木村 真一
昭和63年物理第二学科卒、自然科学研究機構分子科学研究所准教授
受賞の業績 赤外放射光利用技術の開発と多重極限下での強相関電子系の低エネルギー分光研究
(Development on infrared synchrotron radiation spectroscopy and low-energy spectroscopic study on strongly correlated electron systems under the multi-extreme conditions)
受賞の対象となった論文
  • S. Kimura et. al., Infrared and terahertz spectro-microscopy beam line BL6B(IR) at UVSOR-II, Infrared Phys. Tech. 49 (2006) 147-151; Front end optics of infrared beam-line at Spring-8, Nucl. Instrum. Meth. A 467-468 (2001) 437-440.
  • S. Kimura et. al., Infrared study on the electronic structure of the alkaline-earth-filled skutterudites AM4Sb12 (A=Sr, Ba, M=Fe, Ru, Os), Phys. Rev. B 75 (2007) 245106.

2.受賞理由

 木村氏は、シンクロトロン放射用の新型分光装置の開発によって、赤外・テラヘルツ領域の分光研究に多大な貢献をした。木村氏は、更に、シンクロトロン放射およびここで開発した分光装置を強相関電子系の研究に利用し、これまで熱力学的測定から間接的に推測されていた電子状態が直接観測可能であることを示した。この成果は、固体の電子状態の分光学的研究に強いインパクトを与えるもので、世界的に高く評価されている。

 赤外・テラヘルツ領域と呼ばれる低エネルギー光領域には、フェルミ端近傍のエネルギー状態を高分解能・高精度で測定出来るために、強相関電子系の物性研究などの興味あるテーマが数多く存在する。しかしながら、有力な光源がないために、分光研究の発展は遅れていた。そこで、木村氏は、高強度のシンクロトロン放射を用いた赤外・テラヘルツ分光に着目し、従来の性能をはるかに超える新しい分光装置を開発した。それから、Spring8とUVSOR(分子研)に、世界最高の性能を持つビームラインを建設した[業績①]。これらのビームラインの建設により、波数分解幅の測定限界を一気に5㎝-1(エネルギー分解幅0.62 meVに相当)まで縮小し、かつ、独自に開発した計測装置により、従来に比べて桁違いに高い測定精度を実現した。更に、磁気円二色性、極低温・超高圧・強磁場の多重極限状態での赤外分光、赤外磁気光学イメージング、超高圧下のテラヘルツ分光など、従来は不可能と考えられてきた各種分光計測を独自のアイディアで実現した。

 木村氏は、開発した上記の分光測定法を強相関電子系に適用して、特異な物性が出現する極低温・強磁場・超高圧の多重極限環境下の電子状態の観測に初めて成功した。これらの成果は、20篇の論文として出版されており、この分野の研究の進展に多大な貢献をした[業績②]。

第3回森田記念賞報告(平成19年度)

1.選考経過等

第3回森田記念賞(平成19年度)に関しては、公募に対して推薦書が提出された候補者が4名となり、それを対象として2回の選考委員会が開催された。慎重審議の結果、本年度の受賞者が別記のとおり決定された。 授賞式は平成19年10月27日の泉萩会総会において執り行われた。

受賞者氏名
西村 太志
昭和61年天文及び地球物理第二卒、地球物理学専攻准教授
受賞の業績 火山噴火のダイナミクスの研究
受賞の対象となった論文
  • Ground deformation due to magma ascent with and without degassing, Nishimura, T., Geophys. Res. Lett., 33 (2006), L23309
  • 「日本の火山性地震と微動」、西村太志・井口正人著, 京都大学学術出版会(2006)

2.受賞理由

西村氏は火山噴火機構に関する研究を観測、データ解析、理論の方面から精力的に進め、多くの顕著な研究成果を挙げるとともに、火山物理学のテキストとなる「日本の火山性地震と微動」の著書をまとめるなど我が国の火山学並びに火山噴火予知計画の進展に多大の寄与をした。次の2点は特筆に値する:

(1)「マグマ揮発成分による火道内部の増圧過程」の研究(文部科学省科学研究費特定領域研究)では研究代表者としてマグマ内の気泡やガスのミクロな挙動を理論的に解明し、その結果を地表で観測されるマクロな地殻変動観測データと対比することにより噴火様式の予測の理論的な背景を初めて明らかにした。特に、噴火の発生する以前の地殻変動データの特徴的パターンをもとに来るべき噴火様式が「爆発的噴火」になるかそれとも「比較的静穏な噴火」になるかを事前に予測する理論的・観測的な根拠を与えた。これは我が国ばかりでなく海外の火山噴火予知研究者の注目する成果であり、火山噴火予知研究への貢献が大きい。

(2)西村・井口は共著で地震・微動の観測方法、それらの分類、発生要因の解析方法、噴火活動との関連性などを7章に分け系統的にまとめ上記の著書を上梓した。これは火山物理学を目指す大学院生や専門家向けのテキストとして高く評価されている。

第2回森田記念賞報告(平成18年度)

1.選考経過等

第2回森田記念賞(平成18年度)公募に対して7名の推薦があった。2回の選考委員会を開催して慎重審議したが、2名の有力候補者の優劣の判定が難航した。両者がいくつかの点(物性物理学対宇宙論、実験対理論)で非常に異なっているからである。両者の業績が共に顕著であることを考慮して、今回は受賞者を2名とすることが決定された。また、受賞者が2名の場合、規約上賞金は折半することになっているが、今回は両者とも賞金を全額授与することとした。 授賞式は平成18年10月28日の泉萩会総会において執り行われた。

2−1.受賞者1

受賞者氏名
芳賀芳範
平成2年物理第2学科卒、日本原子力研究開発機構先端基礎研究センター副主任研究員
受賞の業績 f電子系化合物の開発的な物性研究
受賞の対象となった論文 First Observation of de Haas-van Alphen Effect in PuIn3, Y. Haga et al., J. Phys. Soc. Jpn., 74(2005), 2889.

2−2.受賞理由

 芳賀氏は、徹底した単結晶作成によって高品質の試料を作成し、これを高精度の各種測定装置を持つ研究者と協力することで多くの研究成果を挙げてきました。学位論文(東北大学理学研究科物理学専攻:1995 年)では 4f 電子系化合物 CeP の物性を解明しました。その後原子力研究所(当時)に入所し、立地条件をフルに活用した 5f 電子系化合物の物性研究を開始しております。特に、UPd2Al3 の磁気揺らぎを介在した超伝導機構の解明やUCe2 の遍歴強磁性の解明に大きく寄与したことが評価されます。

 その後強い放射性を持つプルトニウムの化合物 PuIn3 の単結晶をフラックス法で育成し、その量子振動の観測に成功しました。その結果、この系において 5f 電子が結晶中を動き回っていることを突き止めることができました。この研究は大きな技術的困難を回避しただけでなく、5f 電子系の研究にも大きく寄与するものです。この論文はJPSJ(日本物理学会欧文誌)の注目論文(2005 年)にとりあげられております。

 5f 電子系は電子の局在性に関して3d 電子系と 4f 電子系の中間に位置しており、その物性に興味が持たれておりました。ところが、5f 電子系の元素はすべて放射性を持っており、その研究が遅れております。芳賀氏はこの分野の物性研究を先導しております。 以上により、芳賀氏の業績は森田記念賞に充分値するものと判断されます。

3−1.受賞者2

受賞者氏名
小松英一郎
平成9年天文学科卒、Assistant Professor、 University of Texas at Austin
受賞の業績 宇宙背景輻射の温度ゆらぎ及び偏光度の観測を用いた宇宙論標準模型の検証
受賞の対象となった論文 First Year Wilkinson Microwave Anisotropy Probe (WMAP) Observations: Tests of Gaussianity, E. Komatsu et al., Astrophysical Journal Supplement Series, 148 (2003) , 119.

3−2.受賞理由

 小松氏は、宇宙マイクロ波背景輻射CMB の異方性の高精度観測を通じて、宇宙創成期における指数関数的な加速膨張の検証と冷たい暗黒物質の支配する宇宙組成の決定に成功した。とりわけ、次の3 点は特筆に価する。

1)小松氏が参加したチームは、COBE 衛星の後継機として2001 年に打ち上げられたWMAP衛星により CMB の温度揺らぎと偏光度の天球上の分布を観測した。さらに、そのパワースペクトルの形を簡単な宇宙論模型の摂動計算と比較することにより、宇宙の質量組成として暗黒物質、バリオン、暗黒エネルギーがそれぞれ、23 %、4 %、73 %程度を占めることを明らかにした。小松氏は、基本的な宇宙論パラメターに加えて、宇宙年齢、宇宙の晴れ上がりの時期など興味深い量に関してもその導出を担当した。

2)小松氏は、CMB 温度揺らぎの統計的な性質のガウシアン性のテストがインフレーション理論の独立な検証であることにいち早く着目し、WMAP データの統計テストを通じてインフレーション理論を制限する手法を確立した。

3)CMB の偏光は、CMB 温度揺らぎ測定では制限不可能な、どの時期に第一世代の天体が現れたかを示唆する情報源である。小松氏は極めて微弱な偏光成分と非宇宙論的信号との分離、および偏光パワースペクトル解析と再電離期の導出のためのアルゴリズムとパイプラインを構築したが、その結果は WMAP チームの標準ツールとしすべての研究者に供されている。

 以上のように、小松氏は弱冠 32 歳ながら、観測的宇宙論の分野で内外から高い評価を受け活発な研究活動を進めてきたが、今後もこの分野で世界をリードすることが期待され、森田記念賞にふさわしい研究者と認められる。

第1回森田記念賞報告(平成17年度)

1.選考経過等

第1回森田記念賞(平成17年度)公募に対して9名の推薦があった。2回の選考委員会を開催して慎重審議した結果、全会一致により以下のように決定した。 授賞式は平成17年10月29日の泉萩会総会において執り行われた。

受賞者氏名
石原 純夫
昭和62年物理第2学科卒、本学理学研究科物理学専攻助教授
受賞の業績 金属酸化物の軌道秩序の理論的研究
受賞の対象となった論文 Effective Hamiltonian in manganites:
Study of the orbital and spin structures (Phys.Rev.B)

2.受賞理由

 石原氏の専門分野は物性理論で、これまで金属酸化物の磁性や伝導を精力的に研究してきた。中でも、上記の論文は氏の代表的業績と言える。この論文では巨大磁気抵抗効果を示すことで知られているマンガン酸化物の電子状態を説明する有効ハミルトニアンを提唱するとともに、それを平均場近似によって扱っている。この物質中のフェルミ準位付近の電子状態には立方対称性の結晶場下にあるマンガンイオンの2重縮退した d 軌道が関与するため、この系はスピンの自由度だけでなく軌道の自由度も持つ。本論文では、この物質のスピン・軌道構造について理論的に調べ、種々の実験結果との比較を行っている。特に、軌道秩序状態に特有な集団励起である軌道波の存在を指摘し、その分散関係を決定したことは重要な成果と言える。この結果については後に十倉グループのラマン散乱の実験により確認されている。

 軌道秩序と呼ばれる新しい型の秩序状態がマンガン酸化物の物性に本質的役割を果たすことを明らかにしたことは、石原氏の金属酸化物の物性研究に対する大きな寄与であり、内外の研究者から高く評価されている。この分野は現在でも活発な研究が進められているが、石原氏は引き続きこの分野をリードする研究を続けている。