大型予算獲得状況と紹介

博士課程教育リーディングプログラム「マルチディメンジョン物質理工学リーダー養成プログラム」

サブコーディネーター:平山祥郎 教授
URL: http://m-dimension.tohoku.ac.jp/

 博士課程教育リーディングプログラムは、企業で活躍できる博士課程修了者を養成するプログラムです。特に本プログラムでは東北大学の強みである「材料科学」と「物理」を中心に、新しい物理現象を発見し、それらを実現する物質や材料を創造し、それらを用いたデバイスやシステムを世界のトップリーダーとなって開発していく人財の養成を目指しています。

 これまで日本においてはアカデミックポジションを希望する者のみが博士課程へ進学するという風潮が強く、欧米のように博士課程修了者が広くビジネスの世界で活躍することが一般的ではありませんでした。しかしながら、これからの日本企業はグローバルな活動が必須となり、世界のスタンダードである博士号を持ったリーダーが、世界のグローバル企業との競争と連携に挑んでいかなくてはなりません。そんな将来の日本を背負って立つ力強いリーダーを輩出しようとしているのです。

 修士から博士までの5年間一貫教育においては、マルチディメンジョン、すなわち、機能や特性やプロセスや環境調和性や経済性や安全性といったマルチプルな軸や次元で物質を幅広く俯瞰的に捉えてデザインし、社会のニーズに迅速かつ的確に対応できるリーダーを養成するために、理学と工学の2つのコア、すなわち、物理、化学、数学といった基礎とプロセスや製造技術といった応用に対して「物質科学」の横串を入れ、更に薬学、環境科学、経済学といった教育要素を配して総合的な教育を行います。従来の博士課程における専門分野に対する深い知識と理解に加えて、幅広い知識、俯瞰力、独創性を修得するため、専門の異なる研究室で異なる研究課題と取り組み、従来の博士論文テーマに加えてサブテーマについてのオーバービューも作成します。企業での活躍を念頭に、博士論文の研究テーマに対しては本学が有する様々な産学連携組織などを介した企業群との協働を実現し、産業界からの視点でのアドバイスを受けるとともに、長期のインターンシップにより企業体験も積ませます。さらに、グローバルな活躍のために必要な英語力やコミュニケーション能力の向上のための科目を充実させ、長期の海外インターンシップを通しての異文化交流など、幅広い経験を積ませます。

 本プログラムは、2013年10月に採択され、2020年3月まで継続されますが、それで日本の将来を担う物質リーダーの養成を終了してしまってよいわけではありません。本プログラムで作り上げた養成プログラムを永続的に発展させるためにも、泉萩会の方々からのご理解とご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。


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グローバルCOEプログラム「変動地球惑星学の統合教育研究拠点」

拠点リーダー:大谷 栄治 教授
URL: http://www.gcoe.es.tohoku.ac.jp/

 私たちグローバルCOEプログラムでは、地球惑星変動と地球環境変動を統合的にとらえ、地球と惑星を解明すべく、変動地球惑星学の創出をめざして日夜研究を重ねています。

 さらに、私たちの特色である世界最高精度の観測技術、未踏の極限実験技術、世界最高解像度の解析手法の開発を強力に推進しながら、世界をリードする地球惑星科学の拠点(COE; Center of Excellence)の形成を目指しています。

 教育においては、最先端の研究を目指すなかで若手研究者を育成する「研究第一主義」という東北大学の特長を生かして異分野連携をも進めながら、地球惑星の先端的な観測・実験・野外調査、並びに総合的な解析とモデリング研究を推進していく中で、優れた若手研究者を育成しています。さらに、統合的な本拠点を活用することによって、高度な観測・実験・野外調査能力と様々な観測・実験・解析手法の技術開発力に優れ、かつ現場に強く、課題発掘力に富んだ独創的な研究リーダーを育成するとともに、このプログラムの特徴である研究分野の幅広さを生かして、若手研究者の研究能力の総合力と統合力を育成し、変動地球惑星学を進め得る人材を育成しています。_

 このような教育および研究を推進するために、国際教育研究連携ネットワークを構築して活用し、院生の国際インターンシップの相互受け入れなど、若手研究者のグローバルな教育研究交流を世界各国の教育研究機関との間で行うことも活発なものとなっています。

 このようなグローバルな教育と研究の連携のもとで、この拠点が世界有数の教育研究拠点を形成してゆくことを目指したいと考えています。以下に、この拠点のカバーする教育研究の領域、拠点形成に参加している部局、連携研究機関などを示します。引き続き皆様のご支援とご協力をお願いいたしたいと思います。


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グローバルCOE「物質階層を紡ぐ科学フロンティアの新展開」の紹介

執筆者:拠点リーダー
ニュートリノ科学研究センター 教授 井上邦雄

 これまで物理・数学・天文が連携して推進してきた21世紀COEプログラム「物質階層融合科学の構築」は、5年間の活動ののち成功裏に終了しました。その後を引き継ぐ形で設定されたグローバルCOEプログラムは拠点数が約半分に絞られ、より一層の競争力を求められました。本拠点では、物質階層の各分野間を連携する上での数学の重要性を強調し、より多彩な連携で新分野の開拓を目指すこと、そして、新たに哲学講座が参加することで、研究成果をわかりやすく社会へ発信し、理科離れや文理の垣根といった問題に取り組むことを強調して選抜に望みました。これまでの各分野での抜群の成果や、芽吹きだした連携研究のおかげで、無事グローバルCOE拠点に採択され、「物質階層を紡ぐ科学フロンティアの新展開」が、平成20年度より新たにスタートしました。以下に、本拠点が目指すところを紹介させて頂きます。

 私たちの自然に対する理解は、新しい技術・手法によって急速に進展してきたが、それとともに、自然科学における研究分野は分化・先鋭化し、宇宙開闢以来形成された物質の階層に着目すると、素粒子、原子核、凝縮系物質、天体・宇宙といった物質階層が形成され、今日まではそれら各階層での特徴的な現象が物理科学の主たる研究対象となっていました。先鋭化によって各階層の研究が深みを増した反面、宇宙物質像の統一的な理解や、研究で得られた知見を広く社会に理解できる形で還元することが困難になってきました。実験的研究にあっては、さらなる深化を目指すには目標を単機能に絞り大規模化しなければ国際的な競争での優位性維持が困難な分野もあります。このようなアプローチは着実な進展を見込みやすいものですが、一次元的な研究の深化は、未発見の獲物が沢山飛び交っている広大な自然科学の世界で、槍をもって狩りをしているようなイメージでしょう。蜘蛛の巣のような大きな網を張れば一網打尽にできるかもしれません。ここで獲物に例えたものは、自然科学の研究分野のことです。そして蜘蛛の巣は、新たな研究分野を一網打尽にしようとするサイエンスウェブで、蜘蛛の糸それぞれが科学フロンティアをなしているのです。

 サイエンスウェブの構築はどうすれば実現するのでしょう。この拠点は物理・天文の各分野で、世界最先端を突き進む研究、それを支える実験装置・技術、そしてその研究を実現し世界的に活躍している研究者を有しています。これらの研究や研究者が連携すれば未踏の研究が始まります。極小を対象とする素粒子研究と極大を対象とする宇宙研究が繋がり、新たな研究分野が生まれ、個々の研究も大きく前進したことはよく知られています。この拠点では、多対多で蜘蛛の巣のように連携を張り巡らせることで、サイエンスウェブが構築できると考えています。各階層での研究やそこでの異なる手法を連携させ蜘蛛の糸を張るには共通の言語が必要であり、数学がその役割を果たします。これまでも物理的な現象から数学の新しい分野が生じ、そこでの数学の発展が翻って物理の現象解明に繋がるという事例は多くありました。物理との連携や応用に強い関心を持つ数学者が参画している本拠点では、効果的に連携の糸を張り、効率よくサイエンスウェブを紡ぐことができると考えています。そしてサイエンスウェブ上で多くの新たなる研究分野を開拓し、世界に発信していきます。

 このサイエンスウェブを使って宇宙物質像を統一的に理解するためには、自然科学全体を見渡せる自然観が必要です。そして種々の研究から生じた最新の知見や科学技術を社会に還元するには、科学倫理を身につけた上で適切な言葉でわかりやすく社会に伝える必要があります。この拠点では科学哲学・倫理学を採り入れ、社会との繋がりを重視した応用研究や啓蒙にも注力していきます。

 最後に、本拠点が推進する最先端研究や分野間連携による新分野開拓は、そこで育つ学生にとって、国際的に活躍できる人材に成長するために必要な最高の経験をできる環境でもあります。本拠点は、新たな学術文化の創出を担い、社会のイノベーションに寄与する人材の輩出を強力に推進します。

 さて、この拠点は博士後期課程での人材育成を主目的としており、実際予算の大部分は学生の経済状況を改善するためにリサーチアシスタント経費として使われます。  しかし、グローバルCOEが終了した後も世界的な教育拠点として継続するためには、これから博士課程に進学する学生・生徒たちやそれを支援する保護者、  そして、卒業した博士を受け入れる社会全般に対して、博士後期課程での教育の意義と価値を認識して頂く必要があります。  科学に対する理解が深い泉萩会の方々からのご理解とご支援は、本拠点の活動に大きな助けとなります。今後もご協力のほど、  よろしくお願いいたします。

「物質階層を紡ぐ科学フロンティアの新展開」の詳細はこちらをご覧ください

手作り大学衛星SPRITE-SATと地上観測網で雷放電研究の先端に臨む

執筆者:高橋幸弘
地球物理学専攻 太陽惑星空間物理学講座 惑星大気物理学分野

 雷放電を取り巻く研究はこの20年の間に大きく様変わりをしてきた。 従来の雷雲内及び地上への放電に加え、新たな現象が次々と発見されていることが理由である。 まず、1989年に、雷雲上空40-90kmにかけて赤い複数の筋状の発光が発見され、シェークスピアに登場する妖精を表すスプライトという名前が与えられた。 その後、活発な雷雲の上方、成層圏から熱圏下部に相当する20-100kmの高度領域に4種類以上のメカニズムの異なる過渡発光が見つかり、総称してTLEと呼ばれるようになった(図1)。 TLE観測は、地上、衛星、気球から盛んに行われるようになり、発生メカニズムを説明するモデルも数多く提出されるようになった。 しかし、基本的な現象の把握がまだ十分とは言えず、謎が残ったままである。 スプライトについて言えば、落雷に伴う電荷分布の変化が上空に強い準静的な電場を生み、それによる絶縁破壊が原因とされているが、単純な理論では、落雷との時間的・空間的ズレ、複雑な3次元構造などを殆ど説明できない。我々は、それらの謎を解く鍵は、放電経路から瞬間的に放射されるVLF帯電磁パルス、特にその水平成分にあると考えている。これを確かめるには、スプライトの水平構造と電磁波の波形を同時記録することが必要であるが、地上からでは雲に邪魔されて真下から見上げることができないし、VLF帯の水平電場は地上では検出が難しい。またこれまでの人工衛星観測は地平線方向の撮像のみで、やはり水平構造は未解明のままであった。こうしたTLEの発見とは別に、1994年には雷放電に伴ってガンマ線が放射されていることが、ガンマ線天文衛星の観測から明らかになった。 従来、遠方宇宙の高エネルギー現象起源と思われていたガンマ線が、足下のちっぽけな雷雲から放射されていたことは衝撃であった。しかも今日ではエネルギーが数10MeVにも達することも分かっている。初期の観測頻度はごく稀であったが、2004年に別の天文衛星による大量検出が報告されると、一気に盛り上がりを見せることになったのである。一方、1995年から始まった衛星の光学センサーや、地上電波ネットワークによる雷の全球観測は、気象学の側面からも雷放電モニターの重要性を証明しつつある。特に、太陽自転と同じ周期で雷放電エネルギーが変動する事実の発見は、気候変動の要因を考察する上で大切なヒントを含んでいる可能性がある。

 こうした雷放電に関連する新発見に対し世界が動き始めたのは、台湾のFORMOSAT-2衛星と米国のRHESSIによって、TLEと地球ガンマ線のそれぞれの世界分布が明らかになった2004年頃である。TLEの真上からの撮像と、地球ガンマ線と雷放電の衛星同時観測は、いま当該研究分野の大きな流れとなっている。私たち東北大学のグループはそれよりも若干早い2003年に最初の予算申請(科研費)を行っている。各国のプロジェクトは、国内・機関内の激しい競争を勝ち抜き実現性が確実視されるところまで順調に進んでおり、フランスのTARANIS衛星、欧州宇宙機関の国際宇宙ステーション搭載ASIM、台湾のFORMOSAT-6などは2012年の打上げが予定されている。その中にあって東北大学のSPRITE-SAT計画は、検討のスタートがほぼ同時期にもかかわらず、打上げ時点で3年のリードを持つことになった。その最大の理由は、大学が作る小型衛星ならではの機動力にある。SPRITE-SATは伸展マストを除けば50cm立方、総重量約50kgの超小型衛星であり、衛星の製作・運用は大学が行う(図2)。打上げについてはJAXAの相乗り公募で採択され、2009年1月の温暖化ガス観測衛星「いぶき」のピギーバック衛星の一つとしてH2Aロケットで軌道上まで運ばれる。製作の予算はほぼ科研費(特別推進研究)で賄われている。この科研費の課題では、衛星と地上観測の連携による雷放電にかかわる新現象の解明を目指しており、衛星製作・運用以外にもELF帯およびVLF帯の2つの広域地上観測網の整備・運用などにも充てられている。衛星開発においては、観測機器を理学研究科が、衛星バス(通信、電源など共通機器)を工学研究科が担当しており、両研究科の院生達は密接に協力しながら、高いモチベーションを持ってそれぞれの役割を果たしてきた(図3)。こうした学内の強力でevenな理工連携と、搭載部品を製作する専門性の高い企業の積極的な協力が、予算の大幅な節約と開発・製作時間の短縮を可能にしたのである。そうした企業の多くは東北地方を含む国内各地にある規模の小さな企業であり、実質的に一人で経営されている会社も4つ含まれている。

 最初に科研費・基盤Aが認められたのが2005年、フライトモデルを製作するための特別推進が認められたのが2007年6月であり、それからほぼ1年で完成までこぎ着けたことになる。これは本格的なサイエンスを目的に掲げた衛星としては異例の速さであり、SPRITE-SATはそれが目標とするサイエンスの探求に留まらず、宇宙を利用した科学の新しい方法論の提案という側面も持っている。また、SPRITE-SATは他のミッションの先行実験としても位置づけられ、開発されたハードウェアや経験は、日本の国際宇宙ステーションミッションGLIMSに活かされるとともに、2つ以上の他国ミッションへの機器提供への道を開いた。さらに、この種の観測を世界で初めて実施することから、その宇宙での実運用経験は後続ミッションをブラッシュアップしてより高いレベルでの観測に導くものとして期待されている。

参考:http://www.astro.mech.tohoku.ac.jp/SPRITE-SAT/