イベントレポート

物理学専攻 新博士講演会と専攻賞授与式・祝賀会(平成24年度)

【名称】理学研究科物理学専攻 新博士講演会と専攻賞授与式・祝賀会
【日時】2013年2月22日 ①16:00-17:30 講演会、②17:40-20:00 祝賀会
【会場】理学研究科合同B棟(旧総合棟)


 物理学専攻では、平成19年度から新博士と物理学専攻賞受賞者をお祝いする会を開催しています。今年度は2月22日、新博士講演会と専攻賞授与式・祝賀会が開催され、新博士17名の誕生と7名の専攻賞受賞者(博士3名、修士4名)を祝いました。


■物理学専攻 新博士講演会 (16:00-17:30:745号室)

16:00-高山あかりさん「スピン分解光電子分光装置の建設とBi薄膜におけるラシュバ効果の研究」
16:30-山根結太さん「強磁性ナノ構造におけるスピン起電力の理論」
17:30-丸藤(寺島)亜寿紗さん「カムランド禅でのニュートリノを伴わない二重β崩壊探索の最初の結果」

司会を務めた平山祥郎教授

 新博士講演会では、物理学専攻を代表して、専攻賞を受賞した高山あかりさん、山根結太さん、丸藤(寺島)亜寿紗さんの3名が、他分野の非専門家でも研究のおもしろさが楽しめるよう講演しました。専攻賞とは、物理学専攻の大学院生の中から、物理学研究に関する優れた研究業績を挙げた者を表彰するものです。会場に集まった教員や学生ら約35名は、新博士による講演に熱心に聞き入り、各講演後は活発な質疑応答が行われました。


高山あかりさんによる講演「スピン分解光電子分光装置の建設とBi薄膜におけるラシュバ効果の研究」

講演する高山あかりさん


山根結太さんによる「強磁性ナノ構造におけるスピン起電力の理論」

講演する山根結太さん


丸藤(寺島)亜寿紗さんによる「カムランド禅でのニュートリノを伴わない二重β崩壊探索の最初の結果」

講演する丸藤(寺島)亜寿紗さん



新博士による講演に、教員や学生ら約35名が熱心に聞き入りました

■物理学専攻賞授与式・祝賀会(17:40-20:00:エントランスホール)

物理学専攻長の川勝年洋教授による挨拶

 講演会に続いて、エントランスホールで、物理学専攻賞授与式・祝賀会が開催されました。専攻賞には、博士課程後期から高山あかりさん(総長賞推薦)、山根結太さん、丸藤(寺島)亜寿紗さんの3名、博士課程前期から田中祐輔さん、髙橋遼さん、本多佑記さん、佐藤智哉さんの4名が選ばれ、専攻長の川勝年洋教授より賞状と記念メダルが贈られました。

 写真撮影後は、祝賀会が開かれました。川勝教授は「学位取得おめでとう。基礎分野から応用分野まで、皆さん大変良い発表で嬉しい。これからは大学も外への情報発信が大切な時代。本学専攻からぜひ物理を広めてほしい」と新博士を激励。学位を取得した学生らからは、指導教官や研究室のメンバーらに、感謝の気持ちを伝えるスピーチがありました。

物理学専攻賞授与式(博士課程後期・高山あかりさん)

物理学専攻賞授与式(博士課程後期・丸藤亜寿紗さん)


物理学専攻賞授与式(博士課程後期・山根結太さん)

物理学専攻賞授与式(博士課程前期・田中祐輔さん)


物理学専攻賞授与式(博士課程前期・髙橋遼さん)

物理学専攻賞授与式(博士課程前期・本多佑記さん)


物理学専攻賞授与式(博士課程前期・佐藤智哉さん)

物理学専攻賞受賞者(博士)と指導教官による記念撮影


物理学専攻賞受賞者(修士)と指導教官による記念撮影

祝賀会のようす



■フォトギャラリー








専攻賞受賞者(新博士)インタビュー

◆高山あかりさん(総長賞推薦)

論文題名:「スピン分解光電子分光装置の建設とBi薄膜におけるラシュバ効果の研究」
指導教官:高橋隆教授(電子物理学講座 光電子固体物性研究室)

―このたびは専攻賞受賞ならびに総長賞推薦おめでとうとざいます。まずは喜びの声を一言。

 総長賞は狙っても受賞できる賞ではないので、まさか推薦していただけるとはとても光栄です。実は、どうしても専攻長賞の金色のメダルが欲しかったんです。修士課程の時に(専攻賞を受賞して)銀色のメダルをいただいたので、二つペアで揃えたいなと(笑)。その願いは叶いませんでしたが、博士課程の研究をこのように評価していただいたので十分満足です。

―それでは、研究内容をご紹介ください。

 私は博士課程の研究で、電子の持つエネルギー、運動量、スピン(注1)の3つの自由度を世界最高の性能(分解能)で測定することができる「スピン分解光電子分光装置」を建設しました。また、この建設した装置を用いて、次世代のスピントロニクスデバイス(注2)の動作メカニズムとして注目されている「ラシュバ効果」(注3)という物性を調べるため、特別なスピンの性質をもつ「ビスマス(Bi)」(重い金属)のラシュバ効果を詳しく測定しました。すると、Biのラシュバ効果は、一般的な理論で予測されるスピン構造とは大きく違っていることがわかりました。今回の発見は、次世代の省エネルギーデバイス開発に向けて大きく道を開くものです。

(注1)スピン:電子が持つ、自転に由来した磁石の性質のこと。
(注2)スピントロニクス:電子の磁気的性質であるスピンを利用して動作する全く新しい電子素子を研究開発する分野。電子スピンの上向きと下向きの状態を、デジタル信号の「0」と「1」に対応させて信号処理を行う。電子スピンは応答が早く、熱エネルギーの発生も非常に少ないため、スピントロニクス素子は、超高速・超低消費電力の次世代電子素子の最有力候補とされている。
(注3)ラシュバ効果:最近の研究によって、重い金属の表面や半導体同士の界面に出現することがわかってきた、電子の運動方向とスピンの向きが連動する現象。しかし、実際のデバイスを構成する半導体界面ではラシュバ効果も小さくなってしまうことや、界面の電子状態の実験的観測が難しくラシュバ効果について理解が乏しかったことが、スピントロニクスデバイス開発への障害となっていた。

―研究生活の中で、最も印象に残っていることは?

 今思い返すと、研究室の引っ越しが多かったなあ、と。修士で入学した当初は、物理A棟(現:物理系研究棟)に居たのですが、建物の耐震工事で理学研究科合同B棟に移り、耐震工事終了後にA棟に戻ったところで東日本大震災が発生して、装置を復旧させた数ヶ月後に片平地区のWPI本館に引っ越して、現在に至ります。こんなに短期間で3回(震災復旧も含めると4回)も、引っ越しや大きな調整などをしたので、引っ越しマスターになれそうです。引っ越し作業で1トンもある装置が宙に浮く瞬間は、かなり興奮しました。

―中高生も含めた後輩にメッセージをお願いします。

 私は、生粋の東北大生・理学生ではないので(他大学教育学部卒・修士課程入学)、物理の勉強はとても苦手ですが、それでも何とか博士課程まで修了できたのは、きっと、一つの実験を継続した結果ではないかと思います。中には何でもできる人もいると思いますが、私はあまり器用ではないのに完璧を目指そうとするタイプなので、やる事が増えると全部できずに破綻することもあります。しかし、地味ですが、こつこつ進めた方が、進み方は遅いですが、最終的には上手くいくことが、最近わかりました。何か失敗しても、その方法が良くないとわかることが進歩だと思うので、何事にも失敗を恐れずチャレンジする勇気を持つと、新しい道や視点が見つかる気がします。


◆山根結太さん

論文題名:「強磁性ナノ構造におけるスピン起電力の理論」
指導教官:齊藤英治教授(金属材料研究所)

―このたびは専攻賞受賞おめでとうございます。まずは喜びの声を一言。

 ありがとうございます。とても嬉しいです。指導教官である齊藤英治先生と研究室の皆さん、理論(原子力研究開発機構)の前川禎通先生と森道康先生に感謝しています。

―研究内容をご紹介ください。

 電子とは「電気」を持った素粒子ですが、同時にそれ自身が一つの小さな「磁石」でもあります。そのため電子は電気エネルギーと同時に磁気エネルギーを持っています。これまで知られている起電力(電流を駆動する力)は電子の持つ電気エネルギーを利用してきましたが、実は磁気エネルギーからも起電力を得ることができ、これはスピン起電力と呼ばれています。物質の中には小さな磁石(つまり電子)がたくさん存在し、それらはお互いに相互作用をしています。その相互作用を利用して各磁石の向きやその変化を巧くコントロールしてやると、磁石の持つ磁気エネルギーが電気エネルギーに化け、起電力として使えるというのがスピン起動力のコンセプトです。
 スピン起動力は、理論的に予言されたのが2007年、実験的に観測されたのが2009年と、非常に新しい現象です。そのため、基本的な理論も実験も、まだまだやらなければならない課題がたくさんあります。その中で僕は、「これを計算すれば、スピン起電力を計算できる」という一番基本的な式を理論的に導出しました。また、物質を変えるとどうなるか?など詳しい部分も系統的に研究しました。

―それでは、研究生活の中で、最も印象に残っていることは?

 僕が所属する斎藤研究室所属は実験のグループですが、僕は実験をやらないので、ドクターの3年間は、原子力研究開発機構(茨城県)で前川先生と森先生に日々指導していただきました。理論の前川先生と森先生、実験の斎藤先生、いろいろな方にお世話になりながら研究をしてきました。一番嬉しかったのは、初めて論文が出版された、博士1年生の時ですね。まわりが良い方ばかりなので、気楽にやっています。

―中高生も含めた後輩にメッセージをお願いします。

 冬の寒さにも夏の暑さにも負けずに、がんばってください。


◆丸藤(寺島)亜寿紗さん

論文題名:「カムランド禅でのニュートリノを伴わない二重β崩壊探索の最初の結果」
指導教官:井上邦雄教授(ニュートリノ科学研究センター)

―このたびは専攻賞受賞おめでとうとざいます。まずは喜びの声を一言。

 このような賞をいただくことができて光栄です。指導教官である井上先生から素粒子実験に参加するチャンスをいただいて、本当に嬉しく思っています。私が実験に参加したのは、修士1年生の頃。学部までは天文学専攻でした。天文学と素粒子実験、近いイメージがあるかもしれませんが、やっていることはだいぶ違います。専攻を変更した理由は、井上先生からカムランドのお話を伺って、すごくおもしろそうだと思ったから。自分も参加してみたいと思ったのが、きっかけです。

―それでは、研究内容をご紹介ください。

 ニュートリノの性質を調べる実験を行っています。特に、一つはニュートリノの質量を探るため。もう一つは、ニュートリノと反ニュートリノが同じものなのかどうか、つまり、ニュートリノがディラック粒子かマヨラナ粒子かを調べるのが目的です。
 そもそもニュートリノには質量がないと考えられていましたが、ニュートリノにも質量があることが、最近の研究でわかりました。他の素粒子では質量が測られています。ニュートリノの質量は、軽いことはわかっているのですが、上限値でしか与えられていないため、それを決めたい、というのが一つです。
 また、これまでニュートリノには質量がないと考えられていたので、ディラック粒子かマヨラナ粒子かは区別されていませんでした。他の素粒子は電荷をもっているため、ディラック粒子だとわかっています。ニュートリノに質量があることから、ニュートリノはディラック粒子とマヨラナ粒子どちらなのか注目されています。これを実験を通して調べようとしています。
 具体的には、ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊を使って調べます。これは、素粒子の標準理論では禁止されている崩壊で、ニュートリノがマヨラナ粒子でなければ起こらない反応です。もしニュートリノがマヨラナ粒子であれば、ニュートリノがなぜ軽いかを説明する理論(シーソーモデル)が成り立ちます。
 また、なぜ我々は反物質でできていないか?を説明する理論も成立ちます。この世界は反粒子でできていても、おかしくありません。最初は、粒子と反粒子がほぼ同数つくられますが、対消滅した結果、反粒子は無くなり、我々の体も反粒子でなく粒子でできています。それがなぜかは不思議ですが、ニュートリノがマヨラナ粒子であれば、その謎を説明できるかもしれません。

―研究生活の中で、最も印象に残っていることは?

 ニュートリノの実験施設がある神岡鉱山に初めて入った時が、最も印象的でした。ヘルメットを被って、岩盤剥き出しの鉱山の中を2キロくらい直進すると、実験施設があります。「こんなところで実験するのか」と驚きましたね。
 実験装置は、簡単につくれる小さなものから数十人がかりの大きな装置まで、いろいろな装置を自分たちの力で手作りしています。基礎からつくっていけるのは、すごくおもしろいですね。もちろん、やっているときは大変なこともありますが、実験は楽しいです。他ではできない経験をできたと思います。

―中高生も含めた後輩にメッセージをお願いします。

 素粒子と聞くと、とっつきにくいイメージがあると思いますが、実験はすごく人間臭いものです。いろいろな人達が、細々と、いろいろなことをやって実験が成り立っていきます。単に検出器をつくるだけではおもしろくなく、解析だけではおもしろくなく、それらが最終的に物理に結びついていく感じが、すごくおもしろいのです。ですから、素粒子にも興味を持ってもらえたら嬉しいですね。



【インタビュー】新博士誕生をお祝い/東北大・物理学