【名称】平成27年度泉萩会総会・講演会・懇親会
【日時】10月31日(土) 15:00-20:00
【会場】東北大学大学院理学研究科理学合同 C 棟 C201号室
平成27年度泉萩会総会・講演会・懇親会が10月31日、今年2月に完成した本研究科合同C棟にて開催され、本会員26人が参加しました。本稿では、当日のレポートならびに「第11回森田記念賞」「第7回泉萩会奨励賞」受賞者へのインタビューをご紹介します。
集合写真
平成27年度泉萩会総会・講演会・懇親会が10月31日、今年2月に完成した本研究科合同C棟にて開催され、本会員26人が参加しました。総会に先立って開催された講演会では、佐貫智行先生(東北大学大学院理学研究科物理学専攻准教授)が「国際リニアコライダーの実現へ向けて」、堀内豊太郎先生(元テキサスインスツルメント株式会社取締役 開発本部長、昭和39年物理卒)が「半導体技術がもたらしたもの」と題して講演しました。なお、講演要旨に関しましては、本会報をご参照ください。
講演会に続いて行われた総会では、進藤浩一さん(昭和38年物理卒)が議長を務め、全ての議題が原案通りに承認されました。総会に次いで、第11回森田記念賞および第7回泉萩会奨励賞の授与式が行われました。本年度の森田記念賞は、前田拓人さん(東京大学地震研究所助教、平成13年地物卒)が「震波・津波現象のモニタリングとシミュレーションの融合研究」で、泉田渉さん(東北大学大学院理学研究科物理学専攻助教)が「カーボンナノチューブのスピン軌道相互作用に関する研究」の業績でそれぞれ受賞しました。また泉萩会奨励賞は、茅根裕司さん( University of California at Berkeley, Postdoctoral Scholar , 平成18年宇宙地球物理学科卒)が「宇宙マイクロ波背景放射偏光Bモードの初測定」の業績で、小園誠史さん(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻助教)が「火道流の数値モデリングに基づく噴火機構に関する研究」の業績で、それぞれ受賞しました。授与式では、会長の佐藤繁さん(昭和39年物理卒)が各授賞者に賞状と賞金を授与しました。なお、各賞の趣旨や授賞理由など詳細については、こちらのページ(森田記念賞/泉萩会奨励賞)をご覧ください。
総会後は懇親会が行われ、参加者らが親睦が深めていました。今年の司会は、前田和茂さん(昭和50年物理学卒)と松澤暢さん(昭和56年地物卒)が務めました。懇親会では、まず庄田勝房さん(昭和27年物理卒)による音頭で乾杯した後、会長の佐藤さんによる挨拶がありました。続いて、第11回森田記念賞および第7回泉萩会奨励賞の受賞者によるスピーチの後、前前会長の伊達宗行さん(昭和27年物理卒)や前会長の田中正之さん(昭和34年地物卒)によるスピーチがあり、「これから佐藤会長を助けながら、よりアクティビティの高い活動をしていこう」と今後の本会運営に対する提案などがありました。
前田拓人さん(東京大学地震研究所助教)
—まずは受賞の喜びをお聞かせください。
東北大学を卒業して10年以上が経ちます。その場その場で必死で研究してきました。その成果を改めて母校に評価いただいたことを嬉しく思います。
—今回の受賞対象となった研究について教えてください。
地震や津波はいずれも“波”と言われるものです。津波はまさに海の波ですが、その揺れが地球の上を沿ってやってくる、あるいは地震の場合、地球の中を通ってやってきます。しかし、それらは簡単なひとつの波がぽんと来るだけではありません。地球の中には、一様ではないものが色々と詰まっているため、実際に揺れを感じてガタガタ揺れる現象もとても複雑ですし、津波も一度来るだけでなく二度三度押し寄せて、その形も大変複雑なことがわかっています。私はそのような波の揺れの伝搬の仕方から、地球中の不均一性や、あるいは震源がどういうものであるのかを明らかにしたいと思い、理論、観測された揺れの記録、そして数値シミュレーション、この3つを使って研究をしてきました。
—今回、特にどのような点が評価の対象になったのですか?
様々な研究を幅広くやっていることを評価いただいたと思っています。特に数値シミュレーションは、ここ10年間で計算機の性能が飛躍的に向上し、実際に観測されている揺れや津波を再現できるほどにまでなりました。私は、例えば京コンピュータや地球シミュレータといった大規模計算機を駆使しながら、かつ日本には大量な観測記録もあるため、これらをうまく組み合わせて、地球内部の不均一性や震源の効果等を調べたことを評価いただいたと考えています。
—これからの抱負について、お聞かせください。
我々理学者として知りたいことは、まず第一に波動の波の揺れ方の物理や地球の中身などがあり、それに邁進していくつもりです。一方で日本は地震津波大国であり、純粋な科学研究のみならず、それらの研究が防災・減災にどのようにつながっていくかが、いつも気がかりなところではあります。こういった揺れの伝播の研究は、直接揺れの形がわかったからといって地震の予知ができるものではありませんが、揺れの被害や津波の被害を減らすことには貢献できる可能性があると考えています。今後は純理学の研究と防災・減災への貢献、その両方を担っていきたいと考えています。
—最後に、中高生も含めた若い世代へメッセージをお願いします。
地球の地面の下は、なかなか地味な印象があるかもしれません。ところが空を見上げれば、星や惑星を直接見ることはできますが、地球の中は、掘っても掘っても人間が辿り着けるのは大した深さではありません。そのような意味では、地面の下は、人類の究極のフランティアの一つかもしれないと思っています。この謎を物理や数学、コンピュータを駆使して解き明かしていく地震学、あるいは津波科学は非常に魅力的な分野と思いますので、若い人の将来の参画をとても期待しています。
—ありがとうございました。
泉田渉さん(東北大学大学院理学研究科物理学専攻助教)
—まずは受賞の喜びをお聞かせください。
私は、東北大学の物理学専攻で大学院の修士課程と博士課程を過ごし、その後、幾つかの地で研究を行った後、教員として再びここで研究を行っています。東北大物理は諸先輩方から連綿と続く物理研究の拠点であり、また私の研究活動の出発点でもあるわけですが、その同窓会から学術賞をいただけたことは大変嬉しく、また今後ますます精進せねばと身の引き締まる思いです。
—今回の受賞対象となった研究について教えてください。
カーボンナノチューブは、グラフェンを円筒状に丸めた結晶構造をしていますが、丸める方向により、様々なナノチューブが存在します。一方、スピン軌道相互作用は、電子の軌道運動とスピン(電子の磁気的性質)との間に働く相互作用のことです。原子スペクトルに現れることがよく知られていますが、結晶内の電子状態にも影響します。最近ではスピントロニクスと呼ばれる分野が盛んに研究されていますが、ここでもスピン軌道相互作用が需要な役割を果たしています。
炭素原子からなる結晶ではスピン軌道相互作用が小さいとして、この効果が考えられることはほとんどありませんでした。これに対して、私たちは、ナノチューブの表面が曲がっているために誘起されるスピン軌道相互作用の研究をはじめとして、低エネルギーの電子状態が、従来の描像から修正を受ける必要があることを、様々なナノチューブに対して、理論的に研究してきました。ナノチューブのスピン軌道相互作用に関しては、実験的にも詳細が調べられてきており、現在では、その重要性が認識されつつあります。
—これからの抱負をお聞かせください。
ナノチューブに関していうと、スピン軌道相互作用の他にも、実際には、電子相関などの効果も同様に重要なことが知られています。こちらはまだまだ未知の状況ですので、この観点からも理論研究に取り組んでいきたいと思っています。また、スピントロニクスなどの観点からも、発展性のあるテーマだと思っていますので、その方面の研究も進められればと思っています。
—最後に、中高生も含めた若い世代へメッセージをお願いします。
世の中にはいろいろな価値観の人がいるということは、同じ土地にいるとなかなか気づかないかもしれません。例えば、仙台は、とても住みやすい土地だと思いますが、積極的に外の世界に触れてみるという経験も大切だと思います。一方で、これはと思ったことを、根気強くやり続けることも大切だと思います。ぜひ、失敗を恐れず、いろいろなことに挑戦してみてください。
—ありがとうございました。
小園誠史さん(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻助教)
—まずは受賞の喜びをお聞かせください。
私は東北大学の卒業生ではありませんが、就任して二年の新参者に、栄誉ある賞をいただきましたこと、心から感謝申し上げます。また、審査いただいた先生方、推薦いただいた先生にも感謝申し上げます。
—今回の受賞対象となった研究について教えてください。
火山噴火には幅広い多様性があります。そのような火山噴火の多様性が生じる物理的なメカニズムを数値計算で解明していく研究をしています。具体的には、マグマが地下深くのマグマ溜まりから地表まで上がってくるまでの上昇過程(火道流)を数値計算で調べる研究をしています。
通常は、マグマ溜まりの圧力が高まると、マグマの上昇速度が高くなるという関係があります。しかし、上昇中にマグマが結晶化したり、マグマからガスが抜けるような複雑な過程があると、そのマグマ溜まりの圧力と上昇速度の関係が負の関係を持つ、つまり負性抵抗を持つことが知られています。そのような負性抵抗があると、火道流のシステムが不安定になるため、噴煙を形成するような爆発的噴火と、溶岩ドームや溶岩流を流出するような穏やかな噴火の間で、噴火の急激な遷移が起こることが考えられます。そこで、数値計算に基づいて、そのマグマ溜まりの圧力と上昇速度の関係を丁寧に調べることで、噴火の遷移メカニズムや噴火が遷移する条件を明らかにしたことが、本研究の成果です。
—これからの抱負をお聞かせください。
2011年に鹿児島県の霧島山であった新燃岳噴火でも、先ほど説明したような爆発的噴火と穏やかな噴火の遷移が起こりました。最近は、そのような噴火を非常に高精度で観測できるようになってきています。そのような高精度な観測と、これまでの火道流モデルの研究を組合せることで、実際に起こる噴火の予測を目指していきたいです。
また、東北大学に赴任して、皆コツコツと真面目に研究や勉強を進める雰囲気があると感じました。特に地球物理学科では「地球物理学実験」という伝統科目に非常に感銘を受けました。一般的なカリキュラムにある実験は大抵、実験内容も答えも全て決まっており、学生がそれをなぞる感じですが、地球物理学実験では、実験立案から使用する計測機器の見積り、回路製作まで全て学生たちが行う、まさに学生の自主性をトレーニングする実験です。そのレポートは何十年も過去の卒業生たちから蓄積されており、なかには教授が学生だった頃のレポートもあって、本当にすごいなと思いました(笑)。卒業生で研究職に就いている人を見ると、地道に自分たちで研究を進めていく礎になっていることがよくわかります。最近は計測機器が発展し、自分で回路をつくらずして研究ができる環境になる中、教育の過程で自分で実験系を組み立てる経験は大きな強みになると思います。特に今の時代、他大学では見られないような東北大学地球物理学科として誇るべき伝統だと思いました。その一助になれるよう研究と教育に邁進していきたいです。
—最後に、中高生も含めた若い世代へメッセージをお願いします。
自分が本当におもしろいと思うことを見つけることが一番大事なことではないかと思います。勉強は辛くて非常に苦しいですが(笑)、それを凌駕してまでやりたいのは、自分もやっぱり火山という現象が好きだから。研究するにせよ、これからどんな仕事を見つけるにせよ、それを見つけることが、中高生時代に一番やってほしいことですね。
—ありがとうございました。