東北大学理学研究科物理学専攻 産学連携・キャリアパスシンポジウム
日時:2009年8月1日(土)12:45-18:30
会場:理学総合棟203号室(講演会)、総合棟エントランスホール(懇親会)
物理学科・専攻を修了したら、どのような未来が開けるのでしょうか。東北大学理学研究科物理学専攻では、人材を受け入れる側の企業の方々と、物理学専攻で博士号を取得し様々な方面で活躍されている方々にその経験を語って頂くシンポジウムを開催しました。院生だけでなく学部生も参加し、講演後の懇談会では、講演者からアドバイスをもらう学生もいました。
12:45-13:00 オープニング
◆「物理学科、物理学専攻修了者のキャリアパス」 石原照也(物理学専攻)
13:00-14:20 産学連携シンポジウム
◆「IT業界の構造と将来展望」 功刀 洋(株式会社ジャステック 人材開拓課)
◆「鉄鋼の技術開発を取り巻く最近の動向」 西岡 潔(新日本製鐵株式会社 顧問)
14:20-14:40 コーヒーブレーク
14:40-15:40 キャリアパスシンポジウムI
◆「博士課程修了後の海外での研究生活」 遠藤 基(東大院理物理 助教 2004D素核理論)
◆「たのしいけんきゅうせいかつ」 大野誠吾(東北大院理物理 助教 2005D物性実験)
15:40-16:00 コーヒーブレーク
16:00-17:00 キャリアパスシンポジウムII
◆「フリーダムに開拓しよう」 石山文彦(通信会社研究所勤務 2001D物性理論)
◆「理研ベンチャーでの4年間」 広田克也(理研/(株)日本中性子光学代表取締役 1998D筑波大素核実験)
17:00-17:30 質疑応答・自由討論
17:30-18:30 懇親会@総合棟エントランスホール
産学連携・キャリアパスシンポジウム 講演会のようす
講演後、エントランスホールで行われた懇親会のようす
◆石山文彦さん(通信会社研究所勤務)
工学ではなく理学で博士を取得する強みを三つ挙げる。まずは、現象の背景を見抜き、数理論理言語で言語化する力。次に、得体の知れないものをモデル化し、取り扱い可能にする力。そして、ユニバーサルな専門性。エンジニアにはない力だと思う。
どの業界でも「問題の背景を見ろ」と言われているが、背景を主観的に見る人が多い。背景を客観的に見て、数理論理的言語で議論できると、意見の相違も出ない。
◆広田克也さん(理研/(株)日本中性子光学代表取締役)
大学院教育では、問題点を探し、解決する能力が身につくと言われる。理学部では、ものごとを客観的に見る能力、物理学科では定量的に評価できる能力が身につくと考える。このような技量は「特殊能力」で、実は企業経営に必要な能力と似ている。
客観的に見て、なおかつ定量的に議論ができることは意味のあること。多くの人が主観的に見ようとする時に、客観的かつ定量的に評価することができる。
◆大野誠吾さん(東北大学助教)
前任地では、まわりに工学部出身が多かった。理学部と工学部の視点は異なると感じる。工学部には「手を動かして、まず作る」スタンスの人が多い。そこに「一歩踏み止まって考える」理学部の視点がマッチすると、研究が進めやすい。
◆本木裕介さん(博士1年)
物理で身につく能力が特殊と言われても、まだ自分の中では実感がない。社会に出て、自分がやってきたことが、どのように生かせるかがわからないから、今回参加した。
◆平山祥郎さん(東北大学教授、座長)
まわりが物理なので気づきづらいが、勉強していることが「特殊能力」になっていることは、確かだと思う。学生の皆さんには、自信を持っていただきたい。
◆大野さん(東北大学助教)
就職活動らしい就職活動をしたことはないが、個人の否定と捉えるのではなく、ただ向いていないだけ、という考え方が大切なのでは。
◆遠藤さん(東京大学助教)
自分はポストに困らなかったが、一昨年は苦労した人もいたと聞く。研究は、続けたいと思えば続けられると思っている。「向き・不向き」には実感がわかない。
◆石山さん(通信会社研究所勤務)
すがろうとしては駄目。仲間として迎えられるよう、仲間を作って楽しくやろう、という練習だと捉えて。
◆広田さん(理研/(株)日本中性子光学代表取締役)
大企業だけでなく、他の企業に目を向けても良いのでは。幅広くはないが、特殊な能力を持つ力のある会社はたくさんある。そのような会社とパイプがあるかどうかが、大学の財産だ。
◆遠藤さん(東京大学助教)
それはそれとして、何かやってみる。何もやらなかったら、何もできない。とりあえず何かをやってみることが大事。
◆大野さん(東北大学助教)
遠藤さんと同じく、研究する時は、とりあえず手を動かしてみる。やっているうちに、新しいことが見えてくる。それが実践していること。
◆石山さん(通信会社研究所勤務)
八方塞になるのは、所属するコミュニティーがひとつの場合では。複数のコミュニティーを持っていれば、残りのコミュニティーで対応できる。
◆広田さん(理研/(株)日本中性子光学代表取締役)
スタートを切る時に、どこまで筋書きができているかだ。途中でつまずくこともあるが、一歩もどって、また別のルートを探す。定量性という才能で以って、筋書きはつくれる。ある程度の見通しを立てることが大切になるのでは。
◆平山さん(東北大学教授、座長)
少し視点を変えてみる、あとは楽観的であること。八方塞で「どうしようもない」と思うと、めげてしまう。個人的には、人生楽観的であることが大切と考える。
◆広田さん(理研/(株)日本中性子光学代表取締役)
起業後、大学や研究所にいた頃より、驚くほどつながりが広がり、自分でも戸惑うほどだった。紹介・紹介・紹介で、世界の企業とつながっていくこともある。自分たちが何をやって、どう役立かを面白く伝えられると、次の人に紹介してもらえる。
◆平山さん(東北大学教授、座長)
研究の世界でも、人のつながりは大事だと思うが、いかがか。
◆遠藤さん(東京大学助教)
海外に行き、人とのつながりができたことが大きい。日本ではどうしても限られる。新たなつながりにより、自分のものの見方も広がり、新しい刺激も受ける。海外へ行き、話相手がいるのは楽しい。研究をする上で、人とのつながりは大事。
◆大野さん(東北大学助教)
確かに、研究するようになってから、人とのつながりは深くなってきた。これまで会ったことがない人や、別の考え方と触れ合う機会もあり、自分の中でも勉強になる。必然的にネットワークが深まってくる。
◆石山さん(通信会社研究所勤務)
知らないところから仕事が降って来て、その連続で仕事が広がる。結局、人のネットワークで仕事をしている。一声かけてその場で判断できる人とは、良い仕事ができる。仕事ができるようになるためには、自分で判断して自分で動けるようになることが大切。
◆平山さん(東北大学教授、座長)
リジェクトベースだと、ネットワークはできない。来たものを受け入れる、ということか。
◆広田さん(理研/(株)日本中性子光学代表取締役)
どのラインで来た話が、どのラインで通せるか、だ。すると、次の話も出てくる。
本木裕介さん(博士1年)
◆本木裕介さん(博士1年)
現在就職活動中。物理を専攻した人が、どのように能力を生かしたかを知りたいと思い、参加した。いろいろな分野の方の話を聞き、物理一本の方、企業で生かしている方、いろいろな方向があると感じた。
大沼悠一さん(学部3年)
◆大沼悠一さん(学部3年)
博士課程へ進学予定。研究者を目指している。今回それとは異なる考え方を聞け、自分の考え方を相対化できたので、参加して良かった。
話を聞き、衝撃的な事実もあった。これまでは鉄に対して、これ以上研究しても仕方ないというイメージがあった。鉄の知識だけが必要なのかと思っていたが、新日本製鐵の方の話を聞き、決してそうではないことがわかり、衝撃的だった。
新日鐵ではバブル期、鉄以外に手を出して失敗。講演者の西岡さんは、「鉄で得たことを核にして、連続的にものを考えることが必要」と話していた。
「自分の興味から手を伸ばせ」と実験の先生から強く言われてきた。テーマは異なるが、通じるものがあると感じた。別の視点からそれを見れたので、充実していたと思う。
また二人の助教の話を聞いて、学生時代は、単位を取るためだけではない勉強をしなければいけないと感じた。
大沼さん(学部3年)と話す広田さん(理研/(株)日本中性子光学代表取締役)
◆そんな大沼さんの話を聞いて、広田さんから
今の学生には、議論する必然性があまりないのかもしれない。自分が学生の頃は、先輩の研究者から毎月飲みに誘われ、議論をふっかけられ、考えるきっかけがあったように思う。
前例がない世界、マニュアルがない世界では、自分でものを考えて動けるかどうかが決め手。研究をやるときも同じ。大学院まで行けば、その力はかなり磨かれているはず。
向こうから与えられるのではなく、自分でこれが必要と勉強をはじめ、議論すると身につく。研究でも世の中でも、重要になってくる。