イベントレポート

平成25年度泉萩会総会・講演会・懇親会(平成25年10月26日)

【名称】平成25年度 泉萩会総会・講演会・懇親会
【日時】10月26日(土) 14:40- 20:00 (受付:14:00)
【会場】KKR仙台(仙台市青葉区錦町1-8-17)


 平成25年度泉萩会総会・講演会・懇親会が10月26日、仙台市内のホテルで開催され、本会員30人が参加しました。本稿では、当日のレポートならびに「第9回森田記念賞」「第5回泉萩会奨励賞」受賞者へのインタビューをご紹介します。


◆講演会

講演会の様子

 平成25年度泉萩会総会・講演会・懇親会が10月26日、仙台市内のホテルで開催され、本会員30人が参加しました。総会に先立って開催された講演会では、中村智樹さん(東北大学大学院理学研究科地学専攻教授)が「小惑星探査機はやぶさが持ち帰ったイトカワ微粒子サンプルの解析から判明した小惑星誕生のプロセス」、佐藤繁さん(昭和39年物理卒)が「核研電子シンクロトロンとSOR-RING —放射光科学の先駆けー」を演題に講演しました。なお、講演内容に関しましては、本会報をご参照ください。

■講演Ⅰ:小惑星探査機はやぶさが持ち帰ったイトカワ微粒子サンプルの解析から判明した小惑星誕生のプロセス

【講  師】中村 智樹 先生(東北大学大学院理学研究科地学専攻教授)
【講演要旨】はやぶさは2003年に打ち上げられ2005年9月に小惑星25143イトカワに到着した。二回の着陸を試みたが、サンプルが回収されたかどうかは不明であった。2010年6月に地球に帰還したはやぶさカプセルからは、肉眼では見えない大きさの微粒子が多数発見された。我々によるイトカワ微粒子の分析の結果、イトカワは太陽系誕生時に形成された原始的な小天体であることがわかった。イトカワは当初、直径20㎞以上の天体として形成されたが、その後他の天体が衝突し粉砕され、そのかけらが現在のイトカワであることが判明した。

新関駒二郎さん(昭和40年物理卒、東北大学名誉教授)による講師紹介・司会

中村智樹先生(東北大学大学院理学研究科地学専攻教授)による講演


■講演Ⅱ:核研電子シンクロトロンとSOR-RING —放射光科学の先駆けー

【講  師】佐藤 繁 先生(昭和39年物理卒)
【講演要旨】放射光は、現在、中性子とともに、量子ビーム科学の代表的なプローブとして様々な分野に広く用いられている。我が国においては、1960年代、東京大学原子核研究所(核研)の素核実験用13億電子ボルト電子シンクロトロンに寄生するかたちで放射光科学がはじめられた。この時期は第1世代と呼ばれる。1970年代には、安定した直流光を発生する世界で最初の放射光専用電子貯蔵リングSOR-RINGを、我が国の放射光ユーザー自身が建設し、第2世代に入った。それから40年近く経過して、現在では、第2.5〜3.5世代の特色のある8ヶ所の放射光施設が全国に分布し、多数の研究者が日夜多彩な研究を行っている。本講演では、我が国における初期の放射光科学の進展を概観し、今後に資する。

織原彦之丞さん(昭和39年物理卒、東北大学名誉教授)による講師紹介・司会

佐藤繁先生(昭和39年物理卒)による講演



◆平成25年度泉萩会総会・第9回森田記念賞および第5回泉萩会奨励賞の授与式

総会の様子

 講演会に続いて行われた総会では、前田和茂さん(昭和50年物理学卒)が議長を務め、全ての議題が原案通りに承認されました。今回は会則の改定案が示され、今後の泉萩会のあり方について、予定時間を超えるほど活発な議論が行われました。
 本会長の田中正之さん(昭和34年地球物理学科卒)は「一番の問題は、会員とのコミュニケーション不足。特に若い世代は帰属意識をあまり持たず、同窓生としての意識が弱い。そこで学年責任者を指名し、意思の疎通を図るようお願いした。まず我々の同窓会の体制を整えることなしに、理学部や全学の同窓会との関係の議論に及ばない。次に引継ぐまで、しっかり体制を整えたい」と意気込みを語りました。

副会長の進藤浩一さん(昭和38年物理卒)

議長の前田和茂さん(昭和50年物理学卒)


理事の青木周司さん(昭和53年物理卒)

会長の田中正之さん(昭和34年地物卒)


 総会に次いで、第9回森田記念賞および5回泉萩会奨励賞の授与式が行われました。授与式では、会長の田中さんが各授賞者に賞状と賞金を授与しました。
 本年度の森田記念賞は、川端弘治さん(広島大学宇宙科学センター准教授)が「外層を剥ぎ取られた重力崩壊型超新星の爆発形態に関する研究」の業績で受賞しました。
 また、泉萩会奨励賞は、内田健一さん(東北大学金属材料研究所助教)が「スピン流・熱流相互作用物性に関する研究」の業績で、川村広和さん(東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター助教)が「時間反転対称性破れの探索のためのレーザー冷却不安定原子生成工場の開発」の業績で、それぞれ受賞しました。
 なお、各賞の趣旨や授賞理由など、詳細については、こちらのページ(森田記念賞泉萩会奨励賞)をご覧ください。

第9回森田記念賞を受賞した川端弘治さん(広島大学宇宙科学センター准教授)

第5回泉萩会奨励賞を受賞した内田健一さん(東北大学金属材料研究所助教)


第5回泉萩会奨励賞を受賞した川村広和さん(東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター助教)



集合写真


◆懇親会

懇親会の様子

 総会後は、懇親会が行われました。司会を務めたのは、青木周司さん(昭和53年物理学卒)と落合明さん(昭和53年物理学卒)です。
 会長挨拶で田中さんは「本会の懸案は名簿。本会に限らず世の中の各種団体も、個人情報保護法で名簿を出しにくい時代が続いた。一番の問題は、卒業直後の若い会員の捕捉が悪い点。名簿発行が停滞して10年の間に卒業した学生を、本会だけでなく学科レベルで把握できていない。
 そこで検討の結果、理事会の中で名簿整備委員会を立ち上げ、全理事が分担して仕事をすることにした。さらに、学年連絡責任者に働いていただき、協力して名簿以上のものを良い形で捕捉していくことにした。
 そんな中、明るいニュースもあった。わずかな会費収入ではなかなか新しいこともできないと頭を悩ませてきたが、捕捉が不十分な若い世代にメールを出すと、納費率が高まることがわかった。
 うまく捕捉しながら会費も確保し、会員の要望に応えられるよう活動していきたい。普段から本会に関心を持っていただき、大いに叱責していただきたい」と挨拶がありました。
 続いて、奈良久さん(昭和36年物理修)による音頭で乾杯。第9回森田記念賞および5回泉萩会奨励賞の授賞者によるスピーチも披露され、和やかな雰囲気の中、参加者らは親睦を深めていました。

司会を務めた青木周司さん(昭和53年物理学卒)と落合明さん(昭和53年物理学卒)

会長の田中正之さん(昭和34年地物卒)による挨拶


奈良久さん(昭和36年物理修)による乾杯の音頭

第9回森田記念賞を受賞した川端弘治さん(広島大学宇宙科学センター准教授)によるスピーチ


第5回泉萩会奨励賞を受賞した内田健一さん(東北大学金属材料研究所助教)によるスピーチ

第5回泉萩会奨励賞を受賞した川村広和さん(東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター助教)によるスピーチ


懇親会の様子(1)

懇親会の様子(2)




受賞者インタビュー

■第9回森田記念賞
 川端弘治さん(平成6年東北大学理学部天文および地球物理学科第一(天文)卒、博士(理学)(東北大学)、現在、広島大学宇宙科学センター 准教授)
【受賞の業績】外層を剥ぎ取られた重力崩壊型超新星の爆発形態に関する研究

川端弘治さん(広島大学宇宙科学センター 准教授)

—まずは受賞の喜びをお聞かせください。

◆故郷からの表彰、大きな励みに

 私のルーツは東北にあります。中学生の頃から目指していた東北大学で、本当に好きな物理の世界に進みました。学生の頃は頑張って勉強についていく感じでしたが、天文の道に進んで、今は自分なりの研究をしています。
 しばらく故郷の東北から離れて研究しており、東北とのつながりが少なくなったことを少し空虚に感じていました。そんな中、故郷である泉萩会から表彰いただいたことは大変有り難く、本当に感激しております。大きな励みになります。
 ここにいらっしゃるのは、雲の上の先生ばかり。今回こうして選んでいただき、お話もできました。皆様の期待を裏切らないよう、より大きな成果を挙げて、それをお土産話に仙台に来れるよう頑張りたいと、改めて思いました。
 やっぱり私、東北人なんです。東北がすごく好きですし、出身地の岩手県釜石市も、大学生時代を過ごした仙台市も、ああいった大震災もありましたから、何とか側面からの支援をしたいと、ずっと思っているのです。
 今回に関しては、そういうものと少し違いますが、賞をいただいたことを励みに、繰り返しになりますが、もっともっと頑張って、東北大学に恩返しできると良いなと思っています。

—今回の受賞対象となった研究について教えてください。

◆謎に包まれた超新星爆発

 星空を見上げると、たくさんの星があって、「宇宙はなんて平和なんだろう」と思いますね。まるで未来永劫続くようなイメージがある宇宙ですが、実は、宇宙ってダイナミックなんです。それを代表する一つに、星全体が吹き飛ぶ「超新星」があります。
 星全体が吹き飛ぶって、どんな風だろう?実は、星がどのように爆発するのかは、これだけ研究が進んでも、まだ本当によくわかっていないのです。我々も小さな頃から「星は爆発するんだよ」と聞いていました。けれども実際に自分がこの研究分野に飛び込んでみると、なぜ星が爆発するのかも、どんな星がどんな超新星になるのかも、ほとんどわかっていないことだらけなんですね。
 ただ、確実に星が爆発していることは見つかっています。ここ10年で、日本が誇る8メートル級「すばる望遠鏡」に代表される、巨大望遠鏡が世界中にできたことで、「超新星スペクトル」という光の分析ができるようになりました。その結果、これまで予想していたこと・予想してなかったこと、その両方が見えてきたのです。
 ようやく観測結果を得られるようになり、超新星爆発がどんな爆発をするか、少しずつわかってきたのですね。それでもなお多くの謎に包まれた超新星ですが、超新星は重要な天体です。どんな星がどんな風に生まれ、死んでいくのか。その星の死が、次の星を生み出す原動力になります。宇宙全体がどのように生まれ、どうなっていくかに大きく関わる現象が、超新星なのです。

◆偏光観測で超新星に切り込む

 すばる望遠鏡が使えるようになったちょうどその頃、超新星爆発の研究に深く関われたのが、非常に幸運でした。さらに、他の人がやろうとしなかった偏光観測の技術をすばる望遠鏡に新しく取り入れ、オンリーワン的な観測ができたこともラッキーでした。
 しかも、超新星研究の方でも、ちょうどあの頃、「爆発している星はあるけど、いくら計算でそれを再現しようとしてもできない」状態が続いていました。「星が爆発するためには、こんな非対称性を入れなければいけない」と盛んに言われつつあった時に、それにマッチした観測をできたのもタイミングが良かったのです。
 本当にすごい人は何でも自ら切り拓くかもしれませんが、ずっと地道に小さな望遠鏡で培ってきた技術が、ちょうどタイミングよく使えるようになったすばる望遠鏡に応用できました。しかも、その新しい技術を使って、超新星という、ある意味で競争が激しい注目される分野の研究に活かせました。偏光の技術で超新星に切り込めたことは、実力というより、非常に運が良かったのです。

—観測に「偏光」を使うのと「非対称性を入れる」ことは、どう関係しているのですか?

◆光の偏りで星の形がわかる

 本当の物理の素過程を説明すると難しくなるのですが、逆に、物理って単純なんです。偏光とは光の偏りですね。偏っていないもの、例えば球対称のような偏っていないものからは、偏光は出てこないのです。何かが偏っていることで、ある物理過程を経て、出てくる光が偏っている、つまり偏光するのです。
 一方、星は非常に遠くにあるので、形がわかりません。点にしか見えないのです。超新星となると、我々の銀河ではなかなか起こらないので隣の銀河を探すのですが、遠すぎて当然、形は点にしか見えないのです。けれども、光の偏りは観測できるので、点から来る偏光を見ることで、点にしか見えない天体の形状が球対称なのか、それからずれているかが、はっきりわかります。
 それをもう少し詳しく見ることで、どんな形状かがわかります。単に伸びた状態なのか、それとも少し複雑な非対称性なのか、観測からわかるようになるのです。それをすばる望遠鏡に応用したわけです。それが今回受賞した、超新星の非対称な爆発の研究です。

—それでは、これからの抱負をお聞かせください。

◆宇宙全体の偏光分布を我々はほとんど知らない

 これから2種類の新しいことをしようと思っています。
 一つは、現在さらに巨大な口径30メートル級の望遠鏡が、アメリカやカナダ、中国やインドでつくられています。この望遠鏡を使えば、今の一番大きな望遠鏡より10倍くらい深くて遠いところ、暗いものを見られるようになります。すると、現在の超新星研究では、まだ一歩届かなかったところが、はっきり見えます。それで今よりさらに超新星を詳しく見たいと考えているのが、一つです。
 もう一つは、光の偏りの話です。星や銀河の明るさについては観測が進んでいますが、それぞれの星がどんな偏光を持っているかは、ほとんど観測されていません。ある決まった天体の偏光を観測することは、今の望遠鏡でもできますが、空にたくさんある星々がそれぞれどんな偏光を持っているのかは、不思議なことに、我々はほとんど知らないのです。
 具体的には、目に見える明るさの星は、全天空におよそ8,000個あります。偏光は、その8,000個くらいで観測が止まっている一方、星の明るさの方は、望遠鏡を使って数億単位で測られています。我々の知っている偏光情報は、約30年前で止まったまま時代遅れになっているのが現状です。
 しかし偏光は、光が持つ基本的な性質(光の強さ、波長、偏光)の一つです。にもかかわらず偏光情報がほとんど観測されていない理由として一番大きいのは、たくさんの星の偏光を観測する望遠鏡をつくることが難しいためです。偏光観測に特化した装置をつくる必要がありますが、それができれば、我々は、宇宙全体の偏光をようやく知ることができます。
 そのためには、これまで難しいと言われ、据え置かれてきた課題を突破する必要がありますが、実は、それほどすごい計画でなくてもできそうな当たりがあるのです。そこで今、天空全体を偏光で見る「偏光サーベイ計画」を進めようとしています。望遠鏡としては、1〜2メートルの小さな望遠鏡ですが、偏光観測専用装置で天空全体を観測します。
 これまで8〜10メートルの望遠鏡で、宇宙のおもしろい偏光観測はできいます。しかし、それで済むかと言えば、それではほんの一部しか見えていないのです。さらに巨大な望遠鏡で観測する案もありますが、その望遠鏡は偏光には強くありません。技術的、機械的な問題で、できなくなるんです。
 今回の偏光サーベイ観測では、これまでわかっていた星だけを見るのではなく、全体を広くいろいろな方向で見て、全体としてどうなっているかを見ます。これまで星の形は基本的に球対称と考えられていましたが、偏光観測でそうではない情報が大量に入ってくることになりますので、また新しい発見があると考えています。
 そうやって新しい分野を切り拓くことで、宇宙の新しい側面を見てみたいですし、我々の知っている天文の世界を広げたいと思い、研究を進めています。

—最後に、中高生も含めた若い世代へメッセージをお願いします。

◆不思議だと思う心を大切に

 何かを不思議だと思った時、小さな頃は「どうして?」と聞いたり調べたことが、中高生になると、まわりの目を気にしたり格好をつけたりして、不思議がることをやめてしまいがちです。けれども、ずっと不思議に思って、それを自分なりに調べる、そんな細かい積み重ねが、自分の大きな結果につながっていく出発点になると思います。
 ですから、自分に素直になって、不思議だと思う心を大事に、それをどんどん突き詰めて調べていくことを普段からやってみてください。すると、いろいろなものの見方も、すごく楽しくなります。不思議だと思う心を、ぜひ大切にしてください。

—川端さん、ありがとうございました。


■第5回泉萩会奨励賞
 内田健一さん(平成24年物理学専攻博士課程修了、博士(理学)、現在、東北大学 金属材料研究所 量子表面界面科学研究部門 助教)
【受賞の業績】スピン流・熱流相互作用物性に関する研究

内田健一さん(東北大学金属材料研究所 助教)

—まずは受賞の喜びをお聞かせください。

◆物理学科所属の実感が湧く

 この賞には、実は去年も応募したのですが落選してしまいました。今回はリベンジで受賞できましたので、とても嬉しく思います。修士課程までは慶応義塾大学におり、博士課程から東北大学理学部物理学科に所属しました。しかし、金属材料研究所にいて、授業も受けていなかったので、その意味で、物理学科に所属している実感があまりありませんでした。そんな中、今回この賞をいただいて、やっと物理学科の一員になれたと言うのも変ですが、物理学科に所属している実感がとても湧きました。

—次に、今回の受賞対象となった研究について教えてください。

◆熱からスピン流を生成する現象を発見

 今、「スピントロニクス」という分野が、世界中で研究されています。エレクトロニクスは電気の流れによって駆動しますが、磁気の流れによって駆動される新しいエレクトロニクスが、スピントロニクスと呼ばれています。
 そもそも磁気はなぜ存在するかと言うと、磁気の起源は「スピン」と呼ばれる自由度です。そのスピンの流れである「スピン流」の新しい生成法を発見したのが、今回の受賞につながった研究テーマです。
 特に「スピンゼーベック効果」という現象の発見に関するものです。「ゼーベック効果」とは熱から電流が発生する現象です。そのスピン版の現象がスピンゼーベック効果です。つまり、熱からスピン流をつくり出せる現象を見つけた、という研究です。
 この現象が従来の現象と全く異なるのは、普通のゼーベック効果は金属や半導体中でしか生じないのに対して、この新しく見つけたスピンゼーベック効果は、絶縁体中でも生じる点にあります。
 物理原理として非常に新しい現象でもあるのですが、今まで使われずに捨てられていた絶縁体中の熱も利用した熱電変換が可能になるかもしれないということで、基礎面だけではなく応用面でも注目を集め、共同研究も進めています。

—これまで内田さんには受賞をされる度に何度かインタビューさせていただいています(※)が、最近、心境や環境の変化などはありましたか?

◆子どもが産まれ、大きな励みに

 子どもが最近、産まれました。もう、家に帰るのが、すごく楽しみになりましたね(笑)。実験する時間は減ってしまうのですが、すごく励みになり、やる気が出ます。
 育児にも参加しています。研究者という仕事は、忙しくはありますが、時間がフレキシブルなのは、子育てにすごく良い職業だなと最近思っています。

—これからの抱負をお願いします。

◆継続して成果を出したい

 研究に関しては、今回授賞していただいたのは、数年前に行った研究ではあるのですが、これからも新しい原理・現象を見つけたり発展させたりして、継続して成果を出したいと常に考えています。子どもが覚えてくれる時まで、社会や科学・技術の発展に残る形で貢献できればいいなと思っています。

—ちなみに、お子さんに「ぜひこうなって欲しい」という何かはありますか?

 まだ生後半年なので、特にないです(笑)。研究者は非常に忙しいのですが、そんなにストレスではありません。もちろん忙しいという意味でのストレスはありますが、嫌だなと思うことはほとんどないですね。それはやっぱり好きなことをやれているからだと思うので、子どもも好きなことをやってくれれば何でもいいなと思いますね。

—最後に、中高生も含めて、後輩たちへのメッセージをお願いします。

◆人との関係を重視して学んで

 研究にせよ、勉強にせよ、一人でやるより、いろいろな人と議論して進めた方が、効率も良いですし、理解も深まります。ですから人との関係を重視して学んでいって欲しいなぁと思いますね。偉そうなことは言えませんが・・・

—ありがとうございました

※これまでの内田さんへのインタビュー結果
第1回日本学術振興会「育志賞」受賞
専攻長賞


■第5回泉萩会奨励賞
 川村広和さん(平成15年立教大学理学部卒業、博士(立教大学)、現在、東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター 助教)
【受賞の業績】時間反転対称性破れの探索のためのレーザー冷却不安定原子生成工場の開発

川村広和さん(東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター 助教)

—まずは受賞の喜びをお聞かせください。

◆研究室を代表しての受賞

 今回の成果は、私一人のものではなく、研究室全体で取組んでいるプロジェクトに対して評価をいただきました。このように賞という形で評価いただけたことは大変有難く、研究室を代表して謹んで受け取りたいと思います。
 就職で東北大学に来ましたが、実は、学生時代(立教大学)から、実験のため東北大学の研究施設をよく利用していました。今回、同窓会としての賞をいただき、東北大学の一員として認めていただけたのかな、という思いがあります。
 任期付きの職ではありますが、任期をつなぐことができましたので、今後とも東北大学で研究活動をするにあたって、今回の受賞を糧に、より一層研究に励んで参りたいと思います。

—今回の受賞対象となった研究について教えてください。

◆なぜ宇宙には物質しかないのか

 最終的な目標は、宇宙の成り立ちに関わる問題です。宇宙には、物質と反物質が存在すると言われます。特に、ビックバンで宇宙が誕生した時には、物質と反物質は等しく生まれたはずですが、現在の宇宙には、物質しか存在していません。不思議なことに、反物質が消えてしまったのです。その謎を解く鍵となる物理量として、電子の持つ「電気双極子モーメント」という性質があります。
 電子の持つ電気双極子モーメントは、数値で言うと、ほぼゼロと言われていますが、それがゼロでないことを発見できれば、その謎を解明する手がかりになります。それを如何にして発見するかに対して「新しい実験装置をつくろう」と言っているのが、今回の受賞につながった研究です。
 「フランシウム」という非常に重い元素を利用すれば、電気双極子モーメントを効率良く測れるかもしれない、と言われています。けれども、フランシウムは加速器を使って人工的に生成しなければ得られないものなので、如何に大量に人工的に生成するかが、現在の課題なのです。
 私の所属している東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンターには、「サイクロトロン加速器」という、日本でも有数の大型加速器があります。そこで、その加速器をうまく利用して、できるだけ多くのフランシウムをつくる専用の装置をつくりました。まだ完成ではありませんが、ほとんど原理の検証はできました。それが今回の受賞対象となった論文です。

—「電気双極子モーメント」がゼロではないと証明することが、どうして反物質が存在しない謎を解く手がかりになるのですか?

◆時間反転対称性の破れ

 電子は、一般的に、大きさを持たない点の粒子であると考えられています。電子はいくつかの性質を持っており、一つ特徴的なものとして、今回の内田君の受賞でもある「スピン」と呼ばれる性質を持っています。スピンとは、名前の通り、回転しているようなものと表現できます。電子ですから、その状態で、いわゆる電荷を持っています。これは、よく知られている電子の一般的な描像です。
 そこで、電気双極子モーメントが登場するのですが、実は「電子は点ではなく、大きさを持ち、しかも多少歪みがある」という性質なんですね。要するに、今までは顕微鏡の倍率が足りなくて点に見えていたけど、もっと顕微鏡を良くすれば、形が見えてくるのではないかという研究です。
 それが、なぜ物質・反物質の話につながるかと言いますと、今回の授賞理由のタイトルにもある「時間反転対称性破れ」なのです。時間反転対称性が破れていると、物質と反物質も対称性が破れている、と言われています。
 電子に対する反物質は「陽電子」というものですが、過去から未来に進んでいく電子とは、未来から過去に戻っていく陽電子である、と捉えることができます。それが今の物理学なんですね。時間の進み方と、物質か反物質かは、そんな関係性があるわけです。
 そこで、先ほどの電子の姿に戻るわけですが、スピンは、回転軸方向に対して矢印がある、とよく書きます。矢印の根元側が、その電子が歪んでいるせいで、少し電荷の弱い所があるので、矢印は先の方向に電荷の強い“向き”があるんです。すると、スピンの向きと電場の向きが等しいと考えられます。
 その状態で、時間をひっくり返すと、スピンだけは逆になっちゃうけれども、電荷の向きは変わらないので、スピンと電荷分布の関係性がひっくり返ってしまいます。ですから、時間反転対称性が成立している(対称性が破れていない)とは、反転しても全く何も変わっちゃいけないのですが、今の話だと変わっちゃったので、それは「対称性が破れている」と表現されます。
 つまり、電子が時間反転対称性に対して成立していない性質を持つことを発見できれば、それは物質と反物質の違いを解明する手がかりとなるわけです。伝わりましたか?

—何となくですが、伝わりました。以前、ニュートリノ科学研究センター長の井上先生からお話を伺った、物質優勢の謎を解くニュートリノの右巻き・左巻きの話と形が似ていて、どう関係しているのかなと思いました。今回は電子の話ですが、ニュートリノも電子の相棒ですね。

 それは全くその通りですね。ニュートリノの右巻き・左巻きも、やっぱり進行方向に対して、スピンがどちらを向いているかという話になるので、スピンがキーワードになっている、っていうところに落ち着くのではないかと思います。

—次に、これからの抱負をお聞かせください。

◆自前の装置ある強み活かして研究

 特に原子核物理学は、大型実験装置を使う分野です。他所の実験施設を借りて実験するグループも多い中、今回の研究は東北大学にある自前の実験装置を最大限に活用するものです。今後とも自分たちの装置を大事にしながら、ようやく今回の装置も完成の見通しがたった段階ですので、実際に使って宇宙の謎を解明する結果を出せるような実験を行なっていきたいと思います。

—最後に、次世代に対するメッセージをお願いします。

◆疑問に思い、それを解明する心を大切に

 一昔前は「物理学はもう何もやることがない」と言われていました。けれども何か一つ新しいことができるようになると、また何か一つ新しい不思議ができて、それをどんどん解明していくことが、この先もずっと続いていくと思います。  何か一つ疑問に思うことがあったら、それを解明していく心を大事にすることが、物理学を発展させると思います。疑問に思い、それを解明する心を大切にして、勉強に励んでいただきたいと思います。