イベントレポート

平成24年度泉萩会総会・講演会ならびに「きたもの会」合同懇親会

【名称】平成24年度泉萩会総会・講演会ならびに「きたもの会」合同懇親会
【日時】平成24年10月27日(土)午後2時30分〜午後8時
【場所】弘済会館(東京都千代田区麹町5−1)


 平成24年度泉萩会総会・講演会ならびに「きたもの会」合同懇親会が10月27日、東京都内の「弘済会館」にて開催され、本会員ら42名が参加しました。本項では、当日のレポートならびに「森田記念賞」「泉萩会奨励賞」受賞者へのインタビューをご紹介します。


◆講演会

10月27日に開催された平成24年度泉萩会総会・講演会ならびに「きたもの会」合同懇親会のようす=弘済会館(東京都)

 平成24年度泉萩会総会・講演会ならびに「きたもの会」合同懇親会が10月27日、東京都の弘済会館にて開催され、本会員ら42名が参加しました。
 総会に先立ち開催された講演会では、まず織原彦之丞さん(東北大学名誉教授、昭和39年物理学科卒)による講演が「賢くなって大震災を乗り越えよう〜放射線を正しく恐れるには〜」と題して行われました。織原さんは、原子核に関す る40年にわたる研究実績に基づき、放射能に関する基礎や現状を丁寧に解説。なお、当日の講演資料もご提供いただいたので、詳しくはそちらをご覧ください。
 次いで、吉井譲さん(東京大学 天文学教育研究センター長、昭和52年天文学専攻修士課程修了)が、「巨大科学となった天文学が明かす最新の宇宙像」と題して講演。20世紀後半、観測技術の劇的な向上によって、従来の我々の宇宙像を一変させた観測天文学。吉井さんは宇宙観測の最前線と今後の課題を概説した上で、「膨大な情報量に埋もれた宇宙の真実、それを如何にして取り出すか、研究者の真価が問われている。そして私達は宇宙の本質にようやく迫りつつある」と語りました。

佐藤繁さん(東北大学名誉教授、昭和39年物理卒)による講師 織原彦之丞さんの紹介

織原彦之丞さん(東北大学名誉教授、昭和39年物理卒)による講演「賢くなって大震災を乗り越えよう〜放射線を正しく恐れるには〜」


宮本昌典さん(国立天文台名誉教授、昭和35年天文卒)による講師 吉井譲さんの紹介

吉井譲さん(東京大学 天文学教育研究センター長、昭和52年天文学専攻修士課程終了)による講演「巨大科学となった天文学が明かす最新の宇宙像」



◆平成24年度泉萩会総会・第8回森田記念賞および第4回泉萩会奨励賞の授与式

平成24年度泉萩会総会のようす

 講演会に続いて総会が行われました。総会では、谷田部照男さん(昭和40年物理学科卒)が議長を務め、すべての議題が原案とおりに承認されました。
 議題の中には、会員名簿再作成の必要性が強調されたほか、泉萩会独自の取組みである大学院終了祝賀会やサマースクールが、やむなく中止されたことなどが報告されました。


 総会に次いで、第8回森田記念賞および第4回泉萩会奨励賞の授与式が行われました。授与式では、本会長の田中正之さん(昭和34年地球物理学科卒)が、各授賞者に賞状と賞金を授与しました。
 本年度の森田記念賞は木村憲彰さん(東北大学大学院理学研究科物理学専攻准教授)が「空間反転対称性の破れた重い電子系超伝導の研究」の業績で受賞しました。
 また泉萩会奨励賞は、鵜養美冬さん(東北大学大学院理学研究科物理学専攻助教)が「ハイパー核ガンマ線分光学の発展とハイパー核精密構造の解明」の業績で受賞しました。
 なお、各賞の趣旨や授賞理由など詳細については、こちらのページ(森田記念賞泉萩会奨励賞)をご覧ください。

第8回「森田記念賞」を受賞した木村憲彰さん(東北大学大学院理学研究科物理学専攻准教授)

第4回「泉萩会奨励賞」を受賞した鵜養美冬さん(東北大学大学院理学研究科物理学専攻助教)



集合写真


◆「きたもの会」合同懇親会

「きたもの会」合同懇親会のようす

 総会後は、同会館を会場に、「きたもの会」との合同懇親会が行われました。司会を務めたのは、佐藤繁さん(昭和39年物理学卒)と佐藤榮一さん(昭和40年物理学卒)でした。
 田中会長が「泉萩会のあり方に対して意見をどんどん寄せて」と挨拶した後、小笠原文男さん(昭和28年物理学卒)の音頭で乾杯。同窓生によるスピーチが続々と披露され、和やかな雰囲気の中、参加者らは親睦を深めていました。

司会を務めた佐藤繁さん(昭和39年物理学卒)

司会を務めた佐藤榮一さん(昭和40年物理学卒)


会長の田中正之さん(昭和34年地物卒)による挨拶

小笠原文男さん(昭和28年物理学卒)による乾杯









受賞者インタビュー

■第8回森田記念賞:木村憲彰さん(東北大学大学院理学研究科物理学専攻准教授)
【受賞の業績】空間反転対称性の破れた重い電子系超伝導の研究

木村憲彰さん(東北大学大学院理学研究科物理学専攻准教授)

—まずは受賞の喜びの声を一言お願いします。

 東北大学は明治時代から、特に物理学分野で、世界第一線の研究成果を挙げ続けてきました。そんな時代をつくってきた諸先輩方に自分の仕事を認めていただいたことは、非常に嬉しいと率直に思います。

—今回の受賞対象となった研究について教えてください。

 私の研究対象は「超伝導」という現象です。超伝導とは、電気抵抗や物の性質がガラっと変わる現象で、ちょうど約100年前、1911年にオランダで発見されて以来、わたしたち物性物理分野の研究者が非常に興味を持って研究し続けている分野です。
 最近になって、「対称性の破れ」という考え方が非常に重要だ、ということが次第に認識され始めてきました。この超伝導においても対称性の破れによって、新しいおもしろい現象が起こることを示したのが、私の研究です。
 特に著しくおもしろい現象は、強い磁石を当てても(強い磁場をかけても)超伝導が壊れないという現象です。通常、温度を上げたり、非常に高い磁場をかけると、超伝導は壊れてしまいます。それに対して私の発見した物質は、うんと磁場をかけてもなかなか壊れない性質を持っている点が、新しいところです。

—これからの抱負と若手へのメッセージをお願いします。

 これからの抱負として強く感じるのは、人材育成の重要性です。東北大学には「研究第一主義」という理念があります。研究第一主義とは、「研究だけやれば良い」という意味ではなく、教育や人間育成も研究の中で行うという考え方です。
 私は、この「研究第一主義」の考え方が好きです。どちらかと言うと、研究自体は自分のやりたいことをやりますが、やはり自分の行なっている研究を通して、学生や若い世代に、研究の楽しさや、ものを突き止めることの楽しさ、あるいは、そういったプロセスが、実は社会でも大変役立つことを伝えていきたいです。
 今回受賞対象となった私の研究は、実は、発見と謎解きの2つのポイントがあるのです。一つは新しい超伝導を見つけたという発見です。自分自身も新しいものを見つける過程は、非常にエキサイティングでした。
 ところが、そのような変な(新しい)現象が起きた時、どうしてこんなことが起きるのだろう?どうやったらこれがこんなからくりで起きていると証明できるだろう?という謎解きもあったのです。一つの研究テーマで二つ大変楽しめました。
 これからの若い人たちにも、まずは、ものを不思議に思う気持ち、そして、どうしてそういうことが起こるのだろう?を突き詰めて考える喜びを、知ってもらえたらなと思っています。

※受賞理由の詳細については、こちらのページをご覧ください。


■第4回泉萩会奨励賞:鵜養美冬さん(東北大学大学院理学研究科物理学専攻助教)
【受賞の業績】ハイパー核ガンマ線分光学の発展とハイパー核精密構造の解明

鵜養美冬さん(東北大学大学院理学研究科物理学専攻助教)

—まず、受賞の喜びの声を一言お願いします。

 今回の研究は、10〜20人単位の実験グループで行ったもので、私が代表して論文を書きました。今回の受賞は、共同研究者にも喜んでもらえると思います。大学に帰ったら、学生たちと祝杯をあげると思います(笑)。
 特に、東日本大震災の影響で研究が1年間ストップしていましたが、来年度に大きな実験を開始できるところまでこぎつけました。その節目の年に受賞できたのは光栄です。実は今日も、東海村の施設(J-PARC|大強度陽子加速器施設)から来たんですよ。
 これから震災を超えて、充電期間があった分、物理的な成果を出せると思います。ご期待ください。

—今回は初の女性受賞ですね。「門戸開放」を掲げる東北大学の理念を体現すると会員の皆さんも喜ばれています。

 女性研究者は珍しくない時代がやってきたと思っています。誰かが一番最初になるわけですが、たまたま私が一番最初という光栄な立場にならせていただきました。

—では、受賞対象となった研究内容について教えてください。

 そもそも日本の物理学・原子核物理は、湯川秀樹先生から始まったような学問です。それをもっと深く探求しようという、新しいけれども昔からの流れの基礎物理学です。ですから、すぐには(成果が)世の中に行かないかもしれませんが、「物質ってなんだろう?」という基本的な疑問を探求しよう、という物理学の分野です。
 私は、物質が物質として存在するために重要な力の一つ「核力」を研究しています。最近は、普通にこの辺りに存在する物質から、中性子星など極限の状態まで記述する一つの物理として、体系付けられている学問分野です。
 今回受賞対象となった論文は、アメリカのブルックヘブンという国立研究所の加速器施設で行ったハイパー核のガンマ線分光です。現在は茨城県東海村にある、2009年から稼働中のJ-PARCという日本が誇る陽子加速器施設で実験を行なっています。私たちは、核力の統一的理解を目指して研究を進めています。
 地球上には、「u(アップ)クォーク」と「d(ダウン)クォーク」からなる核子で構成される原子核しか存在しません。しかし加速器で加速された高エネルギー粒子を原子核標的に照射すると、確率的に「ストレンジネスクォーク」を含む原子核(ハイパー核)が生成されます。
 そのハイパー核の構造をガンマ線測定によって明らかにし、原子核を結びつけている力(核力)を解明する研究をしています。その実験成果に対して、今回の賞をいただきました。

—中高生へのメッセージをお願いします。

 日本の原子核物理分野は、世界的にも最先端の施設がたくさんあります。この分野に興味を持っていただいたら、大変色々なチャンスがあるので、東北大学を始めとして、ぜひこの分野に飛び込んでいただきたいと思います。

※受賞理由の詳細については、こちらのページをご覧ください。

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