イベントレポート

平成30年度泉萩会総会・講演会・懇親会(平成30年11月10日)

【名称】平成30年度泉萩会総会・講演会・懇親会
【日時】平成30年11月10日(土)午後3時〜午後7時
【会場】東北大学大学院理学研究科 理学合同C棟 C201号室(青葉サイエンスホール)


 平成30年度泉萩会総会・講演会・懇親会が11月10日、東北大学大学院理学研究科合同C棟にて開催され、本会員18人が出席しました。本稿では、当日のレポートに加えて、「第14回森田記念賞」並びに「第10回泉萩会奨励賞」受賞者へのインタビューをご紹介します。

会長の佐藤繁さん(昭和39年物理卒)による挨拶

副会長の小原隆博さん(昭和55年地物卒)による司会進行

会計の松澤暢さん(昭和56年地物卒)


 平成30年度泉萩会総会・講演会・懇親会が11月10日、東北大学大学院理学研究科理学合同C棟にて開催され、本会員18人が出席しました。総会の開催にあたって、はじめに会長の佐藤繁さん(昭和39年物理卒)から挨拶がありました。総会の議長は副会長の小原隆博さん(昭和55年地物卒)が務め、本年度の活動概要を報告した後、(1)平成30年度会計報告・監査報告並びに経過報告、(2)平成31年度収支予算案、(3)役員改選について、(4)その他、計4つの議題について審議され、全ての議題が原案通りに承認されました。

第14回森田記念賞授与式(松原正和さん)

第10回泉萩会奨励賞授与式(川上洋平さん)

第10回泉萩会奨励賞授与式(木村智樹さん)


 次いで、第14回森田記念賞および第10回泉萩会奨励賞の授与式が行われました。本年度の森田記念賞は、松原正和さん(本学理学研究科物理学専攻 准教授)が「非線形光学効果を用いた機能性物質の研究」の業績で受賞しました。泉萩会奨励賞は、川上洋平さん(平成19年物理卒、博士(理学)、本学理学研究科物理学専攻 助教)が「極短パルスレーザーによる強相関電子系の光誘起相転移と光強電場効果の研究」の業績で、同じく泉萩会奨励賞に木村智樹さん(平成17年地物卒,博士(理学)、本学学際科学フロンティア研究所・新領域創成研究部 助教)が「多波長遠隔観測に基づく回転天体磁気圏の物質・エネルギー輸送の解明」の業績でそれぞれ受賞しました。授与式では、会長の佐藤さんが授賞者に賞状と賞金を授与しました。なお、各賞の趣旨や授賞理由等の詳細については、こちらのページ(森田記念賞泉萩会奨励賞)をご覧ください。

集合写真

森田記念賞受賞講演で司会を務めた石原照也先生(理学研究科物理学専攻 教授)


森田記念賞受賞講演で講師を務めた松原正和先生(理学研究科物理学専攻 准教授)

森田記念賞受賞講演のようす


 総会後は、森田記念賞受賞講演が行われ、森田記念賞を受賞した松原さんが「非線形光学効果を用いた機能性物質の研究」の業績について講演しました。講演では、磁気秩序や電気秩序などの秩序状態が複数共存する物質(マルチフェロイック物質)において非線形光学効果を用いることで、マルチフェロイック状態の実空間での可視化ならびに操作を行った研究について詳しく解説されました。

懇親会の司会を務めた山本明理事(昭和43年地物卒)

会長の佐藤さんによる挨拶


菅原眞澄さん(昭和32年物理卒)による乾杯

懇親会のようす


懇親会のようす

懇親会でのスピーチのようす


懇親会でのスピーチのようす



受賞者インタビュー

■第14回森田記念賞
◆「非線形光学効果を用いた機能性物質の研究」
 松原正和さん(本学理学研究科物理学専攻 准教授)

松原正和さん(物理学専攻 准教授)

— 受賞おめでとうございます。まずは受賞の喜びをお聞かせください。

 まずは選考委員の先生方や恩師・共同研究者の方々に深くお礼申し上げます。私は2014年に東北大学に赴任しましたので、本日ご出席されている先輩の先生方と比べるとまだまだ新米なのですが、本日はそのような大先輩方とお会いできたこともあり、受賞できて本当によかったと思います。

— 今回の受賞対象となった研究について教えてください。

 世の中に機能性物質と呼ばれるものはたくさんあります。どのような機能を持っているのかすぐにわかるものもあれば、そうでないものもあります。また、その機能がどのような機構で生じているのかわかりやすいものもあれば、やはりそうでないものもあります。そのような一部の「本質の理解が困難な」機能性物質にどのような機能があり、また、それがどのような機構で生じているのかを探るために、光を使った特殊な「イメージング」手法を開発しました。それによって、物質機能の本質を可視化できるようになり、実際にミクロに何が起こっているのかが手に取るように分かるようになったことが本研究の特徴だと思います。

 今回研究対象とした機能性物質は「マルチフェロイクス」と呼ばれる、物質の中で電気的な秩序と磁気的な秩序が共存している、特殊な物質です。このような物質においては、複数の秩序の共存による多機能性や、秩序間の相互作用による新機能が出現し、従来の物質とは異なる画期的な機能を持った電気磁気デバイスや、新しい原理の(光)エレクトロニクス機能などが期待され、近年大きな注目を集めています。これまで、多くの方々の精力的な研究によりマルチフェロイクスにおける画期的な新機能が続々と発見されてきましたが、その機能の本質と起源を明らかにすることはなかなか容易ではありませんでした。今回、「非線形光学効果」という光を使ったイメージング手法の開発により、物質の中で実際に何が起こっているのかが、はっきりとわかるようになりました。

— これからの抱負について、お聞かせください。

 今まで誰もやっていない研究にこれからもチャレンジしたいと思っています。例えば、電子は磁石の性質(スピン)を持っていますが、そのスピンを光で超高速かつ自由自在に制御できれば、画期的なテクノロジーが生まれる可能性があります。また、電子スピンが特殊な配列をするとこれまで知られていない機能が出現することが明らかになってきていますが、それを非線形光学を用いることで解明できるのではないかと期待しています。このように、特殊な光技術と電子スピン機能を融合した新分野「非線形スピンフォトニクス」の開拓を目指しています。

— 最後に、中高生も含めた若い世代へメッセージをお願いします。

 新しいことに挑戦してうまく行かないことがあっても、それは決して失敗ではありません。そこにたどり着くより良い方法が存在するというだけで、そこにたどり着くのに最適ではない方法をすでにいくつか発見したことになるのです。いろいろな壁にぶち当たっても、それを超える度に新しい発見があるので、ぜひ高い志を持って諦めずに最後まで頑張ってほしいと思います。いつかどこかでお会いできるのを楽しみにしています(笑)。

— ありがとうございました。


■第10回泉萩会奨励賞
◆「極短パルスレーザーによる強相関電子系の光誘起相転移と光強電場効果の研究」
 川上洋平さん(平成19年物理卒、博士(理学)、本学理学研究科物理学専攻 助教)

川上洋平さん(平成19年物理学科卒、博士(理学)、物理学専攻 助教)

— 受賞おめでとうございます。まずは受賞の喜びをお聞かせください。

 このたびはこのような素晴らしい賞をいただくことができて大変光栄に思っております。私は東北大学で学位を取得した後、一度は民間企業に就職したのですが、その後、東北大学に戻って基礎研究をしています。本大学の大先輩方、大先生方に評価をいただけたことは大変光栄なことであり、今後の研究活動に向けてますます身の引き締まる思いです。

— 今回の受賞対象となった研究について教えてください。

 光を使って物質の中にある電子の動きを見たいというモチベーションで研究しています。この研究では、今年ノーベル物理学賞を受賞したレーザーの技術を利用しているのですが、今でもその技術はどんどん発展しており、最近では10のマイナス18乗秒(100京分の1秒)で起こる電子の動きまで見えるようになってきています。「パルスレーザー」と呼ばれる、いわば短い時間の中に圧縮した光を使うことでこのような電子の動きを見ることができるのですが、私は、このようなパルス光を発生する装置を自作し、これを使って物質の中の電子の動きを見る研究をしています。

— 特に今回、どのような点が評価されて受賞に至ったのですか?

 100兆分の1秒以下の時間まで光を圧縮したレーザーパルス光源を自作し、この世界でただひとつの光源を使って、今まで誰も見たことが無かった電子の動きを見たり、強い光を当てたときにだけ起こる新しい現象を見つけたことを評価していただいたのだと思います。物質に光を当てると、その中の電子がエネルギーを受け取って動くのですが、実は、「どのくらいの速さで」、「どのように動くのか」を直接調べるのはとても難しい問題で、今でもわかっていないことがたくさんあります。物質によっては、光を当てる前と当てた後では、色や電気の流れやすさなどがまるで変わってしまうのですが、その変化がどのように起こるのかという「途中の過程」を捉えることができたという点が本研究の重要な結果のひとつです。

— 光を当てる前と当てた後だけでなく途中も見られることは、物理的にどんな意味がありますか?

 単純に、わかっていなかったことがわかった、ということ自体に意味があると思いますが、例えば、100兆分の1秒の極めて短い時間で起こる変化の途中で、「適切なタイミングで」別の光を当てるなどの人為的な操作を行えば、最後に到達する物質の状態を変えることができるかもしれません。変化の途中の過程を理解できれば、この「適切なタイミング」を見極めることが可能になります。そういった意味では、自然には起きない現象を人為的かつ選択的に引き起こせる可能性があり、物理に限らず科学全体の問題として大きな意味があると思います。

— これからの抱負について、お聞かせください。

 私自身、研究者としてまだまだ未熟者ですし、非常に短い時間で起こる現象を調べる研究自体もまだまだ発展途上です。そのような研究分野で、私自身成長しながら、できるだけ多くの新しい知見を公開していけるよう日々精進していきたいです。

— 最後に、中高生も含めた若い世代へメッセージをお願いします。

 自分の目で見たもの、自分の手を動かして得た結果など、自分自身で得た経験を大切にしてほしいと思います。テストの点数や偏差値など、外からの評価に振り回されることもあるとは思いますが、それよりも自分で失敗したことや経験したことが将来絶対に活きてくるので、そちらを大事にしてほしいです。その上で、科学に興味を持ってもらえると、とてもうれしいですし、そのような若い人たちと、将来一緒に仕事できたらいいなと思います。夢を持って、たくさん失敗しながらチャレンジし続けてください。

— ありがとうございました。


◆ 「多波長遠隔観測に基づく回転天体磁気圏の物質・エネルギー輸送の解明」
 木村智樹さん(平成17年地物卒,博士(理学)、本学学際科学フロンティア研究所・新領域創成研究部 助教)

木村智樹さん(平成17年宇宙地球科学科(地物)卒,博士(理学)、学際科学フロンティア研究所・新領域創成研究部 助教)

— 受賞おめでとうございます。まずは受賞の喜びをお聞かせください。

 出身大学である東北大学理学研究科の物理系同窓会から、卒業後に行ってきた研究活動をお認めいただき、大変うれしく思っています。同時に、これからも研究に励んで研究者として活躍することで、母校に恩返しできればと思っています。

— 今回の受賞対象となった研究について教えてください。

 宇宙には磁場を持って自転している天体が無数にあります。それらの周囲の宇宙空間には、高エネルギーのガスが満ち溢れています。これらが、宇宙から天体に降り注ぐことにより、大気上空で色とりどりのオーロラを光らせたり、地球ですと、オゾン層の破壊物質を合成したりします。高エネルギーガスは、より磁場が強く自転の速い天体に多く存在しますが、その理由はわかっていませんでした。  私は、太陽系で最も強磁場で高速自転している木星を、宇宙望遠鏡や探査機で観測することで、高エネルギーガスの発生や動きの全容解明を試みました。その結果、磁場や自転のエネルギーが、木星周囲のガスを高温にし、そのガスが木星方向に高速で輸送されることを発見しました。今まで、強磁場で高速自転している天体の周囲では、天体方向にエネルギーを高速輸送することは難しいと考えられていたのですが、その定説を覆すものです。

— 特にどのような点が評価されたのですか?

 私が開発と運用に参加してきたJAXAの惑星専用宇宙望遠鏡「ひさき」衛星と、欧米の多くの宇宙望遠鏡との緊密な連携観測を世界で初めて実現し、主導的立場で研究を完成できた点をご評価いただいたのではと思っています。例えば、私達が長期専有可能な「ひさき」衛星により、木星のオーロラの変動を半年以上連続で監視すると同時に、世界最高解像度の撮像が可能なハッブル宇宙望遠鏡で、オーロラの模様を精密に撮像することで、高エネルギーガスの発生や輸送を明らかにできました。これは互いの宇宙望遠鏡が持つ特性を、上手く連携させて観測できたからこその成果です。

— これからの抱負について、お聞かせください。

 木星の高エネルギーガスの輸送経路の途中には、氷でできた衛星、エウロパやガニメデがあります。これらの氷衛星の中には、水の海「地下海」が存在し、地球外生命が存在していると考えられています。私たちが明らかにしたガスの輸送は、「地下海」の環境において、エネルギー源になる可能性があります。私たちは、2020−30年台にかけて、欧州の宇宙機関と共同で氷衛星に探査機を送り込む予定です。この探査機や、地上での氷衛星の環境の再現実験を組み合わせて、高エネルギーガスと地下海の関連を明らかにしたいと思っています。

— 最後に、中高生も含めた若い世代へメッセージをお願いします。

 なぜだろう、不思議だな、と思った現象や事柄を見つけたら、まずは何にも頼らずに「自分で仕組みを考える」ことにトライしてみてください。知りたいと思った知識や知見の多くは、インターネットで簡単に見つかる時代になっています。しかしそれらは多くの先人たちが、何10年もの人生をかけた研究の末に得たものかもしれません。その過程を全て追体験することは不可能ですが、自分の持っている知識、知見、経験を総動員して一つずつ考え、「自分で何かを解明する」ことの楽しさや難しさを実感してみてください。

 知りたいと思ったことが、インターネットでも見つからない時は、チャンスです。もしかしたら、みなさん自身が世界で初めて答えを見つける「発見者」になれるかもしれませんよ。

— ありがとうございました。