イベントレポート

令和元年度泉萩会総会・講演会・懇親会(令和元年10月26日)

【名称】令和元年度泉萩会総会・講演会・懇親会
【日時】令和元年10月26日(土) 午後3時00分〜午後7時
【会場】東北大学大学院理学研究科C棟C201号室(青葉サイエンスホール)


 令和元年度泉萩会総会・講演会・懇親会が10月26日、東北大学大学院理学研究科合同C棟にて開催され、本会員18人が出席しました。本稿では当日のレポートに加えて、第15回森田記念賞並びに第11回泉萩会奨励賞受賞者へのインタビューをご紹介します。

会長の佐藤繁さん(昭和39年物理卒)による挨拶

議長を務めた織原彦之丞さん(昭和39年物理卒)


会計の松澤暢さん(昭和56年地物卒)

花輪公雄さん(昭和51年地物卒)による報告


 平成30年度泉萩会総会・講演会・懇親会が10月26日、東北大学大学院理学研究科理学合同C棟にて開催され、本会員18人が出席しました。総会の開催にあたって、はじめに会長の佐藤繁さん(昭和39年物理卒)から挨拶がありました。総会の議長は織原彦之丞さん(昭和39年物理卒)が務め、本年度の活動概要を報告した後、(1)平成31年会計報告・監査報告並びに経過報告、(2)令和元年収支予算案、(3)その他、計3つの議題について審議され、全ての議題が原案通りに承認されました。また、その他では、花輪公雄さん(昭和51年地物卒)から、理学研究科理学萩友会に泉萩会会長が理事として参加していることについて報告がありました。

第15回森田記念賞授与式(當真賢二さん)

第11回泉萩会奨励賞授与式(高浦大雅さん)


 次いで、第15回森田記念賞および第11回泉萩会奨励賞の授与式が行われました。本年度の森田記念賞は、當真賢二さん(本学学際科学フロンティア研究所・理学研究科天文学専攻 准教授)が「ブラックホールジェットに関する理論的研究」の業績で受賞しました。泉萩会奨励賞は、高浦大雅さん(平成25年物理卒、博士(理学)、九州大学大学院理学研究院 特任助教)が「QCDにおけるリノーマロンの除去:理論的定式化とαs 決定への応用」の業績で、同じく泉萩会奨励賞に杉山尚徳さん(平成22年天文卒,博士(理学)、国立天文台科学研究部 特任助教)が「宇宙論における銀河解析の新たな手法の開発」の業績でそれぞれ受賞しました。授与式では、第15回森田記念賞および第11回泉萩会奨励賞の講評を関宗藏さん(昭和42年天文卒)が行った後、会長の佐藤さんが授賞者に賞状と賞金を授与しました。なお、各賞の趣旨や授賞理由等の詳細については、こちらのページ(森田記念賞泉萩会奨励賞)をご覧ください。

集合写真

関宗藏さん(昭和42年天文卒)による講師紹介と司会


森田記念賞受賞講演で講師を務めた當真賢二先生

森田記念賞受賞講演のようす


 総会後は、森田記念賞受賞講演が行われ、森田記念賞を受賞した當真さんが「ブラックホールジェットに関する理論的研究」の業績について講演しました。業績の詳細については、こちらのページ(森田記念賞)をご覧ください。

 講演後は懇親会が行われました。今年の司会は前田和茂さん(昭和50年物理卒)が務め、はじめに会長の佐藤さんが挨拶し、次に田中正之さん(昭和34年地物卒)による音頭で乾杯した後、参加者同士で親睦を深めました。また、参加者によるスピーチも行われ、近況報告や今後の同窓会運営等について議論を深めました。

会長の佐藤さんによる挨拶

田中正之さん(昭和34年地物卒)による乾杯


懇親会の司会を務めた前田和茂さん(昭和50年物理卒)

懇親会のようす


懇親会でのスピーチのようす

懇親会でのスピーチのようす


懇親会でのスピーチのようす

懇親会でのスピーチのようす


懇親会でのスピーチのようす



受賞者インタビュー

■第15回森田記念賞
◆「ブラックホールジェットに関する理論的研究」
 當真 賢二 さん(本学学際科学フロンティア研究所・理学研究科天文学専攻 准教授)

第15回森田記念賞を受賞した當真賢二さん

— 受賞おめでとうございます。まずは受賞の喜びをお聞かせください。

 東北大理学部の栄誉ある賞をいただき、本当に誇らしく思います。東北地方は歴史的にブラックホールジェットに関する研究が盛んであり、特に岩手県の水沢VLBI観測所はジェットの観測で世界を牽引しています。この地の利を活かして、最新の観測情報を入手しながらジェットに関する独自の理論研究を進め、国際チームにおいてブラックホール影の理論解釈に貢献したことが評価されました。また東北大に赴任する以前に開拓し、東北大でさらに成果を広げたジェットの偏光に関する研究も評価され、嬉しく思います。

— 今回の受賞対象となった研究について教えてください。

 ブラックホールとは、重力(万有引力)が極限的に強く、一度入れば光さえも出てこられない領域のことを言います。その存在はアインシュタインの一般相対性理論によって予言され、観測的に強い証拠が近年になって重力波の検出とブラックホール影の撮像の成功によって得られました。ブラックホールは、何でも物質を吸い込むというイメージに反して、その近傍からプラズマジェットを噴き出しています。そのメカニズムは宇宙物理学における大きな謎の一つです。私はブラックホールの回転エネルギーが引き抜かれてジェットが駆動されるという標準的な理論シナリオの一般性と因果律について理解を進めました。ジェットの偏光に着目して新しい理論アイデアを複数提示し、観測研究や基礎物理研究を巻き込んだ世界的な研究の流れを作り出しました。さらにブラックホール影の撮像を成功させたイベントホライズンテレスコープの国際グループに所属し、ジェット研究者が少ない中、ジェットの知見を利用してブラックホールの回転量を制限する議論を推し進め、グループの成果の拡大に貢献しました。

— これからの抱負について、お聞かせください。

 自然科学は実験・観測と理論が両輪となって進んでいきます。しかし現代の天文学観測や物理学実験は実現するための費用が莫大になり、簡単に進められなくなっています。そんな中、ジェットの偏光観測やイベントホライズンテレスコーププロジェクトは比較的小さい費用で実現できます。そのためこれからどんどん新しい観測データが出てくる見込みです。それらを利用して自分の理論アイデアを確認したり、新たなデータに対してまた独自のアイデアを提示したりする研究を行い、最終的にブラックホールジェットのメカニズムを確定させたい。これらを後輩のポスドクや若い学生と一緒にやっていきたい。また、これまで通り広い視野を保ち続け、他の基礎物理的な問題の解明にも貢献したいと思っています。

— 最後に、中高生も含めた若い世代へメッセージをお願いします。

 私は中高生のとき、勉強もスポーツも一生懸命やりました。しかし大学生のときにスポーツとその他の社会勉強に力を入れすぎたせいで、大学院の目当ての研究室に入るのに相当苦労しました。そして研究室では、もちろん優秀な方ではなく、苦労の連続でした。これまで、スマートに理論研究ができたことはありません。いつも泥臭く、他の人がやらない理論研究を探り、様々なテーマに取り組んできました。その中で多くの共同研究者に恵まれました。気が付くと、世界各国の共同研究者を巻き込んだ研究を進められるようになっていました。国内外の色々な研究者と協力しながら、宇宙の謎について理解を進められた時の感動は、何にも代えがたいものがあります。他の学問と同様に、宇宙にももちろんまだまだ多くの謎が残されています。多くの若者が学者を志してほしいと思います。

— ありがとうございました。


■第11回泉萩会奨励賞
◆ 「QCDにおけるリノーマロンの除去:理論的定式化とαs 決定への応用」
 高浦 大雅さん(平成25年物理卒、博士(理学)、九州大学大学院理学研究院 特任助教)

第11回泉萩会奨励賞を受賞した高浦大雅さん

— 受賞おめでとうございます。まずは受賞の喜びをお聞かせください。

 奨励賞への推薦や授与を決定して下さった皆様の励ましのお気持ちに感謝したいと思います。過去の受賞者を見ると、各研究分野で活躍されている方ばかりなので、受賞に関しては恐縮の思いもありますが、同時に大きな励みになります。

— 今回の受賞対象となった研究について教えてください。

 私の研究分野は素粒子理論で、特にクォーク・グルーオンといった素粒子のダイナミクスを扱う量子色力学(QCD)です。この理論の力の強さを規定する定数(αs)を高精度決定したというのが今回の研究内容です。このパラメータはQCDのみならず、素粒子の様々な現象の予言精度に関わる重要な量です。この決定は様々な方法でなされていますが、今回我々が行なった手法の特徴は、基本的な理論予言のツールである摂動論を改善し、これまでの摂動予言よりも有効領域が3倍程度広い理論予言を用いている点です。このような理論計算を用いて、実験と理論のオーバーラップする領域を広く取り、信頼性の高いαs決定ができたと考えています。

— これからの抱負について、お聞かせください。

 研究者として、もっと良い研究をしていきたいと思います。私自身研究者としては多くの業績があるわけではないですし、また学ぶべきことも多くあります。取り組みたい研究もまだまだあるので、一歩ずつ研究を積み重ね、分野の発展に繋げられたら良いなと思います。

— 最後に、中高生も含めた若い世代へメッセージをお願いします。

 偉そうなことが言える立場ではないですが、私自身が感じているのは常に自分の頭で考えることが重要かなと思います。そうすれば自分なりの思考の道筋や考え方が出来てきて、そういうものはどんな分野をやる上でも大切なことではないかと思います。

— ありがとうございました。


■第11回泉萩会奨励賞
◆「宇宙論における銀河解析の新たな手法の開発」
 杉山 尚徳さん(平成22年天文卒,博士(理学)、国立天文台科学研究部 特任助教)

第11回泉萩会奨励賞を受賞した杉山尚徳さん

— 受賞おめでとうございます。まずは受賞の喜びをお聞かせください。

 この度は、泉萩会奨励賞を授与させていただいて、誠にありがとうございます。本賞は過去に天文学教室から私の尊敬する先輩方も受賞されており、私自身もその中に加われたことを何よりも嬉しく思っています。本賞に推薦してくださった天文学教室の先生の方々には、この場を借りてあらためて改めて感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。

— 今回の受賞対象となった研究について教えてください。

 私の研究対象は、宇宙論と呼ばれる、宇宙全体を取り扱う最もスケールの大きい物理学の分野です。特に私は宇宙に存在する無数の銀河が、宇宙の中でどのような法則を持って分布しているかを理論的、観測的観点の両方から研究することを専門としています。例えば、宇宙の最初はビッグバンと呼ばれる高温の火の玉だったと考えられていますが、そのビッグバンの名残は、実は宇宙に散らばる銀河の分布の中に残っていることが知られています。高性能望遠鏡で銀河を多数観測すれば、宇宙の始まりから宇宙がどのように進化してきたかを知ることができるのです。私は、観測された銀河分布から宇宙の進化を調べるために、既存の解析手法とは異なる様々な手法を提案し、実際にデータを解析してきました。このような新しい試みを評価していただき、今回本賞を受賞させていただくことになりました。

— これからの抱負について、お聞かせください。

 現在、日本において銀河観測による宇宙論は全盛期を迎えつつあります。なぜなら、今まさに「すみれプロジェクト」と呼ばれる、ハワイにあるすばる望遠鏡を用いた世界最大規模の銀河探査計画が進行中だからです。この計画は、宇宙の国勢調査とも呼ぶべき網羅的な宇宙探査で、今後十年の世界の宇宙論分野を日本主導の「すみれプロジェクト」が牽引することは間違いありません。当然私自身も、今現在このすみれプロジェクトに関わっています。このような巨大プロジェクトの中で、中心的な役割を果たしプロジェクトを成功に導くことは、まさに私のような若手研究者に求められるものです。今後も、すみれプロジェクトを通じて様々な発見ができるよう、研究を邁進していきたいと考えています。

— 最後に、中高生も含めた若い世代へメッセージをお願いします。

 研究は大変で、研究者になる道のりは険しいものだとよく言われます。それは確かに正しいです。しかしそれ以上に、研究というものは楽しいものだと考えています。どんな些細なことでも、世界で初めて何か新しいことを発見した時の喜びというものは、他のものではなかなか代え難いです。これから研究者を志す若い人も、やるからにはできるだけ研究を楽しみ尽くして欲しいと願っています。

— ありがとうございました。