イベントレポート

令和3年度泉萩会総会・講演会(令和3年10月30日)

【名称】令和3年度泉萩会総会・講演会
【日時】令和3年10月30日(土曜日) 午後3時〜午後5時
【会場】オンライン開催(Zoom利用)


 令和3年度泉萩会総会・講演会が10月30日、オンラインにて開催され、本会員28人が出席しました。本稿では当日のレポートに加えて、第17回森田記念賞並びに第13回泉萩会奨励賞受賞者へのインタビューをご紹介します。

 総会の開催にあたって、はじめに会長の小原隆博さん(昭和55年地物卒)から挨拶がありました。 その中で、令和3年1月に「きたもの会」様から多額のご寄付を頂いた事に深く感謝いたします旨が、述べられました。
 総会の議長は副会長の織原彦之丞さん(昭和39年物理卒)が務め、本年度の活動概要が報告された後、(1)令和2年会計報告・監査報告並びに経過報告、(2)会計年度切り替えについて、(3)森田記念賞、泉萩会奨励賞の今後について、(4)規約改正(会計年度の変更、専務理事の廃止等)、(5)役員の交代について、(6)令和3年収支予算案、(7)その他、計7つの議題について審議され、すべての議題が原案通りに承認されました。

会長の小原隆博さん(昭和55年地物卒)による挨拶

議長を務めた副会長の織原彦之丞さん(昭和39年物理卒)による進行


理事(会計担当)の松澤暢さん(昭和56年地物卒)による報告

監事の馬場護さん(昭和42年物理卒)による報告


 次いで、第17回森田記念賞および第13回泉萩会奨励賞の授与式が行われました。本年度の森田記念賞は、西山尚典さん(平成20年宇宙地球物理学科卒、博士(理学)、情報・システム研究機構国立極地研究所 助教)が「大型大気レーダーを用いた太陽-磁気圏高エネルギー粒子に対する中層大気の応答の研究」の業績で受賞しました。泉萩会奨励賞は、Nugroho, Stevanus K.さん(平成30年度 天文学専攻博士課程修了、自然科学研究機構 アストロバイオロジーセンター 特任研究員)が「可視赤外線の高分散分光の時系列解析による系外惑星の大気組成および構造の解明」の業績で、同じく泉萩会奨励賞に富田史章さん(平成25年宇宙地球物理学科卒、東北大学 災害科学国際研究所(理学研究科兼務)助教)が「2011年東北沖地震に伴う海底地殻変動場の推定とそのモデル化」の業績で、同じく泉萩会奨励賞に佐藤隆雄さん(平成19年宇宙地球物理学科卒、北海道情報大学経営情報学部システム情報学科 准教授)が「光学リモートセンシングと大気放射伝達計算による惑星大気の研究」の業績でそれぞれ受賞しました。授与式では、会長の小原さんが各賞の講評を行った後、各授賞者がスピーチを行いました。なお、各賞の趣旨や授賞理由等の詳細については、こちらのページ(森田記念賞泉萩会奨励賞)をご覧ください。

第13回泉萩会奨励賞を受賞した佐藤隆雄さんによる受賞スピーチ

第13回泉萩会奨励賞を受賞した富田史章さんによる受賞スピーチ




森田記念賞受賞講演会

 総会後は森田記念賞受賞講演が行われ、森田記念賞を受賞した西山尚典さん(平成20年宇宙地球物理学科卒、博士(理学)、情報・システム研究機構国立極地研究所 助教)が受賞のスピーチを述べた後、「太陽-磁気圏高エネルギー粒子に対する中層大気の応答の研究」と題して講演を行いました。業績の詳細については、こちらのページ(森田記念賞)をご覧ください。


授賞者インタビュー

■第17回森田記念賞
◆「大型大気レーダーを用いた太陽-磁気圏高エネルギー粒子に対する中層大気の応答の研究」
 西山尚典さん (平成20年宇宙地球物理学科卒、博士(理学)、情報・システム研究機構国立極地研究所 助教)

第17回森田記念賞を受賞した西山尚典さん

— 受賞おめでとうございます。まずは受賞の喜びをお聞かせください。

 この度は、栄誉ある森田記念賞をいただき誠にありがとうございます。まだまだ過去の受賞者の方に比べて研究途上ではありますが、叱咤激励を頂いたと受け取り、これからより一層研究に励もうと思います。この場をお借りして、大学院時代にご指導いただきました坂野井健先生、岡野章一名誉教授をはじめとする、理学研究科地球物理学専攻・C領域の先生方に大変お世話になりましたことを御礼申し上げます。

— 今回の受賞対象となった研究について教えてください。

 太陽や宇宙空間から地球の大気に突入してくる荷電粒子の痕跡を、日本の南極基地である昭和基地(南緯69°, 東経37°)に設置された大型大気レーダーを使って調べました。宇宙空間には様々なエネルギーを持った荷電粒子(電子や陽子など)が存在するのですが、地球の持つ固有の磁場や大気は荷電粒子が地球表面まで侵入してくるのを阻む役割を持っています。しかし、エネルギーの高い粒子は、量や頻度は少ないものの、磁場や大気の制止を振り切り地球近傍までやってきます。私が調べたのは中間圏と呼ばれる高度60-80kmの大気の領域にやってくる荷電粒子で、これらの粒子は中間圏で分子や原子を電離(イオンと電子のペアを作る)させ、エネルギーを失います。その際に増える電子をレーダー観測によって、精密に測定しました。研究に使った南極昭和基地大型大気レーダーは南極最大かつ最新の大気レーダーで、荷電粒子が増加させた電子をレーダーエコーの微弱な変化として検出する事が可能です。高エネルギー荷電粒子がどのような時間スケールや頻度で中間圏に到来してくるのかを調べました。

— これからの抱負について、お聞かせください。

 荷電粒子による中間圏の大気電離は一酸化窒素(NO)や二酸化窒素(NO2)といった分子を増やすことが知られています。これらの分子はオゾンを壊す化学反応の触媒として働くため、成層圏のオゾン層破壊への影響が近年重要視されています。私たちは大型大気レーダーを使って、荷電粒子による中間圏の電離に注目してきましたが、オゾン破壊との関連を調べるためには、大気レーダーでは測定不可能なNOやNO2の変化を、他の地上観測やロケット・衛星観測、あるいは数値モデルとの比較を進める事が重要だと思います。オゾン層の破壊は、人体な有害な紫外線量の増加だけではなく、地球大気全体の循環に関わるため、今後の気候変動の研究においても重要なテーマです。荷電粒子によるオゾン破壊と気候変動への影響について研究を発展させることで、持続可能な社会の実現に少しでも貢献できればと考えています。

— 最後に、中高生も含めた若い世代へメッセージをお願いします。

 私が中高生の時代と比べると、やはりインターネットの普及による情報へのアクセスの容易さとその情報の膨大さが全然違うなと思います。このような恩恵を活かして、気になったことや興味のあることを調べてみる、またそこから違った興味や視点に発展していくことが重要だと思います。一方で、調べることは全ての出発点に過ぎず、私たちの研究も同じですが、問題を解決する際に重要なのは自分の頭で一生懸命考えることだと思います。自分で考えることで、情報の取捨選択も出来る様になると思いますし、例え間違っていたとしてもその経験は無駄になりません。そのことは、研究者に限らず、どんな職業でも、同じような気がしています。このご時世で現場での体験は難しい面もあるかと思いますが、まずは興味のあることに触れてみることが大事だと思います。

— ありがとうございました。


■第13回泉萩会奨励賞
◆ 「可視赤外線の高分散分光の時系列解析による系外惑星の大気組成および構造の解明」
 Nugroho, Stevanus K.さん (平成30年度 天文学専攻博士課程修了、自然科学研究機構 アストロバイオロジーセンター 特任研究員)

第13回泉萩会奨励賞を受賞したNugroho, Stevanus K.さん

— 受賞おめでとうございます。まずは受賞の喜びをお聞かせください。

Thank you so much! I am truly honoured to have received this prestigious award. I dedicate this award to my collaborators and instrument scientists which without them this research would have been impossible. And, of course, to my family which have been very patient and supportive to me.

— 今回の受賞対象となった研究について教えてください。

My main research focus is studying the atmosphere of planets outside our solar system using high-resolution spectroscopy. Most of my targets are hot Jupiters, gas giant planets orbiting very close to their host star therefore spatially unresolved. At high spectral resolution, the atomic/molecular features are resolved into thousands of lines with a unique pattern for a given chemical species and environment. During the orbit of the planet, its spectral lines are largely Doppler-shifted while the spectral lines of the host star and Earth's atmosphere are relatively stationary. These two simple yet useful facts are the key to isolating the planetary signals and unambiguously detecting specific chemical species in them. It is one of the most powerful techniques at our disposal which hopefully will allow us to search for the sign of life on other planets

Applying these, we detected TiO and Fe I emissions from the day-side of an ultra-hot Jupiter, WASP-33b, showing that it also has a stratosphere just like our Earth. Recently, using the new spectrograph on the Subaru telescope, the InfraRed Doppler instrument, we successfully detected the OH emission from its day-side as well. It is the first time that OH is detected on a planet outside the solar system. This opens a new way to measure how much oxygen is in the atmosphere of these extreme worlds, where even water vapour is destroyed due to its high temperature (>2200 K), which can help us to investigate how they were formed.

— これからの抱負について、お聞かせください。

I'd like to continue my work and push it forward so that in the future, hopefully, we will be able to unambiguously detect biosignatures outside our Earth and improve our understanding of our place in the universe.

— 最後に、中高生も含めた若い世代へメッセージをお願いします。

The universe that we live in is a very beautiful place that has a lot of hidden fascinating things that are waiting to be found by those who are willing to put their mind to it. Never let other people tell you that you can't be what you want to be. Live your life to the fullest every single day and never give up because your destiny is yours to make. Don't ever forget your friends and family because at the end of the day they will always be there to help you reach it.

— ありがとうございました。


■第13回泉萩会奨励賞
◆「2011年東北沖地震に伴う海底地殻変動場の推定とそのモデル化」
 富田史章さん (平成25年宇宙地球物理学科卒、東北大学 災害科学国際研究所(理学研究科兼務)助教)

第13回泉萩会奨励賞を受賞した富田史章さん

— 受賞おめでとうございます。まずは受賞の喜びをお聞かせください。

 栄誉ある賞を頂けたことを大変光栄に思うとともに、身が引き締まる思いです。この賞に恥じぬよう、今後も精進してまいりたいと思います。この賞を頂けたことは、共同研究者をはじめとした大変多くの方々が私を支えてくれたおかげだと実感しております。この場を借りて皆様に御礼申し上げます。また、この度選考していただきました泉萩会の皆様にも改めて御礼を申し上げます。

— 今回の受賞対象となった研究について教えてください。

 今回受賞に至った業績としましては、2011年東北地方太平洋沖地震(東北沖地震)後の海底での地殻変動を計測し、それをモデル化したことになります。
 東北沖地震をはじめとした巨大な地震の後には、「余効変動」と呼ばれる特徴的な地殻変動が生じることが知られております。陸上のGNSS観測等でも余効変動を捉えることは可能ですが、より現象の本質に迫るには、地震の発生源の近くの海底で観測を行うことが重要です。我々の研究グループは、海底測地観測によって東北沖地震に伴う海域での余効変動を大局的に捉えることに成功しました。
 更に、この余効変動と地震時変動を統一的にモデル化する解析手法を新しく提案しました。それにより、海底での余効変動の観測結果から地震時にプレート境界でどのような変動現象が起きたのか、そして、地震後にどのような変動現象が続いて発生したのか、ということを明らかにいたしました。
 地球で発生する現象を明らかにしていく上では、実際にどのような現象が起こっているかを綿密に掌握する「観測」活動とそれらを正しく「モデル」化することが重要です。こうした観測とモデルの両面でのアプローチが評価され、この度の賞をいただけることができたのだと考えております。

— これからの抱負について、お聞かせください。

 今回賞を頂いた研究内容は、まだまだ観測・モデル化の両面で改善すべき点が残っております。それらを解決すべく、現在は新しい解析手法の導入を図っております。こうした新しい解析手法を通して、今回の解析結果をより良いものに仕上げていきたいと思います。
 また、近年地球物理学分野では、ベイジアン解析手法や機械学習手法の高度化により様々な新しい解析方法が提案されており、それらの発展には目を見張るものがあります。こうした新しい技術を取り入れながら、研究を発展させていきたいと考えています。
 そして、東北沖地震をはじめとした巨大地震の発生メカニズムの把握・それらのリスク評価に少しでも貢献していければと考えています。

— 最後に、中高生も含めた若い世代へメッセージをお願いします。

 これは、私が自分自身に言い聞かせたいことでもあるのですが、何事にもチャレンジ精神を持って取り組むことが大切だと思います。興味を持ったことに対して、「あんまりよく分からないからやめておこう」・「自分じゃ大したことができないから別にいいや」と消極的になるのではなく、とりあえず一歩踏み出して何か行動してみる(自分でよく調べる・周りの人に相談する等)ことで、思いもかけない新しい可能性に出会えるかもしれません。こうしたチャレンジ精神の積み重ねが、面白い研究を築いていく上では重要なのだと感じています(研究に限らず、多くのことで言えるかもしれませんが)。私自身がとても消極的な人間なので、そうならないように私も精進していきたいです。

— ありがとうございました。


■第13回泉萩会奨励賞
◆「光学リモートセンシングと大気放射伝達計算による惑星大気の研究」
 佐藤隆雄さん (平成19年宇宙地球物理学科卒、北海道情報大学経営情報学部システム情報学科 准教授)

第13回泉萩会奨励賞を受賞した佐藤隆雄さん

— 受賞おめでとうございます。まずは受賞の喜びをお聞かせください。

 このたびは栄えある泉萩会奨励賞を頂戴し、誠に光栄に存じます。ご多忙の中、賞の選考に携わられた泉萩会理事会の先生方に厚く御礼申し上げます。大学院時代の指導教員として研究全般にわたって様々なご支援下さった推薦者の笠羽康正先生に深く感謝申し上げます。私が研究者としての一歩を踏み出した場所でもある東北大学理学部物理系の賞を頂けたことは、この上ない喜びですし、それと同時に賞の名に恥じぬよう今後一層の研鑽を積まなければいけないと思っています。どうもありがとうございました。

— 今回の受賞対象となった研究について教えてください。

 「光学リモートセンシングと大気放射伝達計算による惑星大気の研究」というのが今回の受賞業績です。私は可視光線〜赤外線を用いて取得した地上望遠鏡や探査機観測データを基に、惑星(特に金星)の雲層構造やその光学特性について、大気放射伝達モデルを用いて研究を行っています。1つ目の受賞対象論文では、「すばる望遠鏡」の冷却中間赤外線装置を用いて金星の雲頂模様や構造を調べました。地上に居ながらにして探査機と同等以上の空間解像度かつ感度をもつデータであり,南北両極の輝度温度模様が同期しながら回転している現象や紫外線で見られるような横倒ししたY字模様が中間赤外線でも見られるといった発見につながりました。2つ目の受賞対象論文では、金星探査機「あかつき」に搭載されている2-μmカメラ「IR2」が取得した金星の昼面画像から雲頂構造を調べました。雲頂高度の緯度分布や太陽地方時依存性は、過去の金星探査機「Venus Express」の結果と整合するものでしたが、近赤外波長で見た雲頂高度にも、紫外模様と同様の微細構造が見られる点や大気重力波に伴う定在構造が存在することなど新たな知見を得ることができました。

— これからの抱負について、お聞かせください。

 今も蓄積し続けている「あかつき」の撮像データ,地上望遠鏡や「Venus Express」の分光データなどを利用して,賞を頂戴した研究テーマをより多角的な視点から深化させていきたいと考えています。2021年には欧米で新たに3機の金星探査ミッションが選定され、今後ますます地球の双子星である金星を理解しようとする機運が高まることでしょう。私も何らかの形でこれらのミッションに携わっていければと思います。もちろん金星に限らず,日本の宇宙ミッションにも陰に陽に貢献できるよう努めて参ります。博士課程後期を修了して9年が経ちましたが、初心を忘れずに興味の赴くままに研究対象を掘り下げていく探究心をこれからも磨き、今後の研究生活をより実りあるものにしたいと思います。

— 最後に、中高生も含めた若い世代へメッセージをお願いします。

 既に自分が夢中になれる対象がある方は、ぜひとことん探究してほしいと思います。まだそういった対象がないという方は、自然や文化、歴史など様々な対象に視野を広げて触れる機会を増やしてみましょう。その中に一生モノの出会いがあるかもしれません。振り返ってみると、東北大学の研究環境はもちろんのこと、仙台は勉強するにも研究するにも大変恵まれた環境だったと思います。20代の大半を同世代の研究仲間と一緒に切磋琢磨できたことは私にとって貴重な経験でした。コロナ禍で若い世代の皆さんは特に辛い思いをされていると推察いたしますが、やってみたいことがあるのであれば、躊躇せず色々な事に挑戦してほしいと思います。なりふり構わず挑戦できるのが若さの特権です。私も若い世代の皆さんに負けないように頑張ります。

— ありがとうございました。