イベントレポート

令和5年度泉萩会総会・講演会(令和5年10月28日)

【名称】令和5年度泉萩会総会・講演会
【日時】令和5年10月28日(土曜日) 午後3時-午後5時
【会場】オンライン開催(Zoom利用)


 令和5年度泉萩会総会・講演会が10月28日、オンラインにて開催され、本会員28人が出席しました。本稿では当日のレポートに加えて、第19回森田記念賞並びに第15回泉萩会奨励賞受賞者へのインタビューをご紹介します。


令和5年度泉萩会総会

 令和5年度泉萩会総会が10月28日、オンラインにて開催され、本会員28人が出席しました。総会の開催にあたって、はじめに小原隆博会長(昭和55年地物卒)から挨拶がありました。総会の議長は織原彦之丞副会長(昭和39年物理卒)が務め、(1)令和4年度の泉萩会活動が小原さんより報告されました。続いて、(2)令和4年度会計報告・監査報告、(3)令和5年度収支予算案、(4)その他の議題について審議され、すべての議題が原案通りに承認されました。また、同窓会の今後の存続について議論が行われました。

小原隆博会長(昭和55年地物卒)による挨拶・本年度活動報告

議長を務めた織原彦之丞副会長(昭和39年物理卒)


松澤暢理事(昭和56年地物卒)による本年度会計報告並びに次年度収支予算案

馬場護監事(昭和42年物理卒)による報告


 次いで、第19回森田記念賞および第15回泉萩会奨励賞の授与式が行われました。本年度の森田記念賞は、森下貴弘さん(平成24年宇宙地球物理学科(天文)卒、カリフォルニア工科大学 Junior Staff Scientist)が「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を用いた新たな初代銀河の探査手法の確立と宇宙再電離期の解明」で受賞しました。泉萩会奨励賞は、山田將樹さん(東北大学学際科学フロンティア研究所 助教)が「電荷を持つブラックホールの球対称なスカラーヘアー」の業績で、同じく泉萩会奨励賞に久保田達矢さん(平成23年宇宙地球物理学科卒、防災科学技術研究所 主任研究員)が「海底観測データに基づく地震と津波と火山噴火現象の総合的研究」の業績でそれぞれ受賞しました。授与式では、会長の小原さんが各賞の講評を行った後、各受賞者がスピーチを行いました。なお、各賞の趣旨や授賞理由等の詳細については、こちらのページ(森田記念賞泉萩会奨励賞)をご覧ください。

織原副会長による第19回森田記念賞並びに第15回泉萩会奨励賞についての授賞報告

森田記念賞並びに泉萩会奨励賞の受賞メダル



第19回森田記念賞を受賞した森下貴弘さんによる受賞スピーチ

第15回泉萩会奨励賞を受賞した山田將樹さんによる受賞スピーチ



第15回泉萩会奨励賞を受賞した久保田達矢さんによる受賞スピーチ




森田記念賞受賞講演会

 総会後は森田記念賞受賞講演が行われ、森田記念賞を受賞した森下さんが「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を用いた新たな初代銀河の探査手法の確立と宇宙再電離期の解明」と題して講演を行いました。講演動画は以下よりご覧いただけます。なお、業績の詳細については、こちらのページ(森田記念賞)をご覧ください。

森田記念賞受賞講演で講師紹介・司会を務めた関宗藏理事(昭和42年天文卒)

森田記念賞受賞講演で講師紹介を行った市川隆先生(東北大学名誉教授)



森田記念賞受賞講演で講師を務めた森下貴弘さん(カリフォルニア工科大学 Junior Staff Scientist)




受賞者インタビュー

■第19回森田記念賞
◆ 森下貴弘さん(平成24年宇宙地球物理学科(天文)卒、カリフォルニア工科大学 Junior Staff Scientist)
「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を用いた新たな初代銀河の探査手法の確立と宇宙再電離期の解明」

第19回森田記念賞を受賞した森下貴弘さん

— 受賞おめでとうございます。まずは受賞の喜びをお聞かせください。

 大変栄誉のある賞だと伺っております。私が続けてきた研究、そしてその成果を評価していただいたことを大変嬉しく思っております。

— 今回の受賞対象となった研究について教えてください。

 私達の宇宙は、およそ140億年前に「ビッグバン」という現象で生まれたと考えられています。そこから星が生まれ、たくさんの星が銀河を構成し、現在の宇宙の姿へと進化を遂げてきました。そのほんの最初の10億年の間に、宇宙は再電離期と知られる転換期を迎えました。その時代に存在した中性水素の殆どがプラズマ状態に遷移する、いわば「宇宙の晴れ上がり」現象です。この晴れ上がりを迎えることにより、宇宙は初めて、光が行き来できる「透明」な状態になりました。興味深いことに、その晴れ上がりの重役を担ったのは、その当時誕生したばかりの若い星や活発な銀河であったと考えられています。私はそういった宇宙初期における星や銀河を探し出し、その性質を調査する研究をしてきました。
 2020年12月に打ち上げられたNASA・ESA主導のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、この分野において技術革命をもたらしました。この宇宙望遠鏡計画は、我々天文学者は30年にも及ぶ年月を掛けて達成したプロジェクトであり、私自身も大学学部生の頃から興味を持っていたものです。私は、この新しい宇宙望遠鏡によって可能となった新たな探査方法を適用することにより、これまでに知られていたどの天体よりも遠く、つまり宇宙の始まりに存在した銀河を見つけ出すことに成功しました。これらの銀河は、我々の知る現在の銀河とは性質が大きく異なっており、当時の宇宙の環境・様子を明確に示しています。さらに、この調査により、銀河種族による宇宙再電離への寄与がどの程度あるのかという制限をつけることにも成功しました。

— これからの抱負について、お聞かせください。

 ジェームズ・ウェッブ望遠鏡の台頭は、我々にとってまさに新時代の幕開けであり、日々新たな事実や疑問が発見されています。また、私は現在、2026年に打ち上げ予定のローマン宇宙望遠鏡という新しい宇宙望遠鏡計画にも携わっています。この新しい宇宙望遠鏡は、これまでにない視野の広さと観測感度を持ち、暗黒物質・暗黒エネルギーや宇宙の大規模構造といった疑問を解明すると考えられています。このような躍動的な時代にいち研究者として貢献できていることに歓びを覚えております。また、我々の発見や研究成果をより幅広い層の方々に知っていただけるよう、様々な場面で普及活動をしていければと思っております。

— 最後に、中高生も含めた若い世代へメッセージをお願いします。

 ジェームス・ウェッブ宇宙望遠鏡計画に見られたように、国際化の進んだ現代では、革新的な成果を挙げるためには規模の大きな計画が必要不可欠です。その大きな目標を達成するためには、多くの場合長い年月が必要とされ、複数世代による恒久的な貢献が必須です。中高生の皆さんにとっては遠い先の話のように聞こえるかもしれません。しかし、皆さんの関心がいずれ我々人類の知識・理解を前進させるための大きな力になります。是非身近なサイエンスに耳を傾け踏み込んでみてください。

— ありがとうございました。


■第15回泉萩会奨励賞
◆ 山田 將樹さん(東北大学学際科学フロンティア研究所 助教)
 「電荷を持つブラックホールの球対称なスカラーヘアー

第15泉萩会奨励賞を受賞した山田將樹さん

— 受賞おめでとうございます。まずは受賞の喜びをお聞かせください。

 このような素晴らしい賞をいただくことができたことは、非常に光栄で大変うれしく思います。対象論文は私が東北大学の助教に着任してからすぐに書いたものですが、東北大学では自由に自分のアイデアで研究をする環境が整っていまして、そのおかげもあって自分なりに面白い研究ができたと思います。そのなかで、こういった賞を受賞させていただいたことではっきり分かる形で認められたというのは、これからの研究の励みになります。これからも知識の追求を続け、新たな発見を重ねていきたいと思います。

— 今回の受賞対象となった研究について教えてください。

 純粋なブラックホールは質量と角運動量および電荷のみで特徴付けられ、それ以外のパラメーターは存在しないことが知られています。ブラックホールを区別するための特徴が少ないことから、ブラックホールの無毛定理と呼ばれています。一方で、物理理論を拡張して、空間的に広がるような物質場(スカラー場)が存在した場合を考えると、ブラックホールの周りでそのスカラー場が特徴的な形を保って存在できる可能性があります。そういったスカラー場の安定な形が存在するかどうかというのは、理論的に興味深い問いとして考えられています。
 20年以上前の研究で、ブラックホールが角運動量を持たずに球対称であった場合、そういったスカラー場の形は安定には存在できないという定理が証明されていました。私は共同研究者とともに彼らの計算を見直し、その定理の証明には間違い(もしくはほとんど適用範囲が存在しない条件)があることを発見しました。そして実際に安定に存在できるスカラー場の形があることを示しました。この発見によって、ブラックホール自体は無毛であっても、その周りには単純な真空ではない場が広がっている可能性があるということがわかりました。それが実際の宇宙で実現されていて観測できるかどうかというのは可能性が低いものの、理論的に面白い研究成果だと思います。

— これからの抱負について、お聞かせください。

 私は毎年新しいテーマの研究を考えてみるということを目標にしていまして、今回の受賞対象となった論文も私がそれまで行っていた研究とはいくらか違った方向性のものでした。そういった、分野を超えた研究がイノベーティブな研究につながるのだと思います。これからも自身の専門分野にとらわれない、柔軟な視点から新しい研究を考えていきたいと思います。

— 最後に、中高生も含めた若い世代へメッセージをお願いします。

 実を言うと私は中学生や高校生のときには宇宙についてはほとんど興味がありませんでしたが、大学では素粒子や宇宙の分野に進むことになりました。中学高校では特に何も考えずに勉強していても、大人になったときにはそれまで思ってもみなかった面白い分野に進むことができる道が開けているかもしれませんので、がむしゃらに学び続けてみるのもいいと思います。逆に、いま宇宙など特定のものに興味がある方は、それだけに注目して学ぶのではなく、周辺の分野にも興味を広げてみると、新しい視野が開けて世界が広がるかもしれません。特に物理学はあらゆる分野がつながっていますので、広い視点から見直すと、また違った理解ができて面白くなることがあります。最後に、勉強する時間があるというのは、大人になってからは贅沢な時間だったなと思うことがありますので、いまの時間を大切に過ごしてください。

— ありがとうございました。


■第15回泉萩会奨励賞
◆久保田 達矢 さん(平成23年宇宙地球物理学科卒、防災科学技術研究所 主任研究員)
「海底観測データに基づく地震と津波と火山噴火現象の総合的研究」

第15回泉萩会奨励賞を受賞した久保田達矢さん

— 受賞おめでとうございます。まずは受賞の喜びをお聞かせください。

 栄誉ある賞を頂けたことを大変光栄に思うとともに、身が引き締まる思いです。この賞に恥じぬよう、今後も精進してまいりたいと思います。この賞を頂けたことは、大学時代を過ごした地震・噴火予知研究観測センターの先生方をはじめとした大変多くの方々が私を支えてくれたおかげだと実感しております。この場を借りて皆様に御礼申し上げます。また、この度選考していただきました泉萩会の皆さまにも改めて御礼申し上げます。

— 今回の受賞対象となった研究について教えてください。

 私はこれまで、さまざまな海底観測データや数値シミュレーションを駆使して、地震・津波・火山現象の物理メカニズムの理解、言い換えると「なぜ起こったのか」を明らかにするような研究を進めてきました。
 たとえば、2012年12月7日に宮城県沖ですこし変わった地震が起こりました。この地震は東北沖の陸側のプレートの下に沈み込む太平洋プレートの内部で発生した地震ですが、まず深さ60km付近でM7の地震が発生し、そのわずか10秒程度の後に、深さ20km付近で別のM7地震が発生したというものでした。ほぼ同時に地震が起こったため、陸上に設置された地震計では2つの地震により生じた地震波形が重なってしまい、両者の断層の位置関係を正確に知ることは難しいものでしたが、私は、海底の観測データ、とくに津波の波形データを駆使して、2つの地震の震源断層の位置関係を正確に求めることに成功しました。さらに、この地震と2011年の東北地方太平洋沖地震との関係から、この地震を引き起こした太平洋プレートの内部の応力や断層の摩擦強度の状態を明らかにしました。ほかにも、2011年東北地方太平洋沖地震(M9.0)の震源域直上に展開された、地震動と津波が同時に記録されている海底圧力計のデータの解析に取り組み、その波形記録から震源域直上の大振幅の地震波形を取り出すことに成功しました。東北地震のようなM9巨大地震の震源の直上で地震波形を得られたことはこれまでなく、世界で初めて貴重な観測記録を得ることに成功しました。また、2022年1月15日には、南太平洋トンガ諸島のフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山で大規模な噴火が発生し、地球規模で伝播する大規模な津波が発生しましたが、この津波は、通常の津波よりも異常に速く伝播したという特徴がありました。私は、数値シミュレーションを用いて、この奇妙な津波が、地球表面に沿って伝播する大気の波の一種である「ラム波」によって励起された津波であることを、世界に先駆けて明らかにしました。

— これからの抱負について、お聞かせください。

 私は東北地方太平洋沖地震が起こった2011年の3月に宇宙地球物理学科を卒業しました。それだけがきっかけというわけではないですが、私はいま,巨大地震や津波がなぜ起こるのか,といった地震発生の物理メカニズムの理解を深めるための研究や、地球で起こる物理現象の観測データの解析と発生メカニズムの理解の研究を進めています。このたびの受賞を通じて、これらの一連の研究を、これから防災に活かしていくことができれば、といっそう気の引き締まる思いでいます。この賞に恥じないよう、今後も精進して参りたいと思います。

— 最後に、中高生も含めた若い世代へメッセージをお願いします。

 いまの時代、スマートフォンが普及して、膨大な情報に容易にアクセスできるようになったと思います。なんでもよいので、ご自身が不思議に思うこと、興味をもったこと、知りたいと思うことを深掘りして調べてみてください。そうやって手に入れたたくさんの情報をもとに色々と考えていると、その内容について「自分なりのものの見方や新しい発見」が浮かぶかもしれません。この体験が、まさに理学の道への第一歩です。理学研究を通じて、私たちは新たな発見・知見を得ますが、それは程度に差はあっても「まだ誰も知らない自然の真理」であり、それを自分だけが誰よりも早く知ることができるというところに理学の醍醐味があると思います。ぜひ身の回りのいろいろなことに興味をもち、「新しい発見」を探求してみてください。

— ありがとうございました。